米国の安全保障政策の指針となる「4年ごとの国防戦略見直し(QDR)」は、多様な脅威への対処を重視し、日本、韓国などアジア太平洋の同盟国の役割拡大を促した。脅威の中身を検討し、それに協力して対処するのが同盟関係のあるべき姿である。
米国にとり、4年前と比べた戦略上の変化のうち、最も大きいのは、アフガニスタンでの苦戦だろう。新興国が台頭し、非国家勢力の影響力も強まり、大量破壊兵器(WMD)が拡散する。サイバー空間での軍事行動の危険もある。
多様化した脅威に効果的な対処ができなければ、世界の安全は損なわれる。戦略見直しが新たな脅威を強調するのは当然である。
だが、これまで前提としてきた2つの大規模地域紛争への同時対処を想定からはずしたのは、米国にとって現実論であるにせよ、日本の立場からすれば問題なしとしない。中東、アジアでの二正面作戦の想定は、北朝鮮に対する一定の抑止機能を持ったからである。
日本、韓国などアジア太平洋の同盟国に核、通常戦力による拡大抑止を提供するとしたのは、これを補う意味だろう。同盟国との関係強化である。
日米同盟の場合、本来であれば、日本の集団的自衛権の行使を織り込む形での防衛協力の強化である。が、それは鳩山政権下の日米関係では、現実的ではない。
戦略見直しの発表とほぼ同時に、外務・防衛両省の局長級による日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)が東京で開かれた。鳩山政権が米軍普天間基地の移設問題の結論を5月に先送りした結果、日米間では鳩山・オバマの首脳間の対話が機能しなくなっており、事務当局がそれを補い、戦略対話をしている。
鳩山政権は政治主導を掲げるが、日米同盟は、10年前までの「事務方同盟」に戻ってしまった。岡田克也外相は、クリントン国務長官とのハワイでの会談の重要性を強調するが、両者はまだ深い信頼関係を築くまでには至っていない。
米側が提起した同盟国の役割拡大は、具体化すれば、鳩山政権にとって荷の重い課題になる。