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天声人語

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2010年2月4日(木)付

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 唱歌の「早春賦」にいささかの思い出がある。小学校の音楽の時間、女の先生が「今日から季節が変わって、この歌が歌えるのです」とオルガンを弾いて美しい声を聞かせてくれた。自分もお好きな曲だったのだろう。四十数年前の、おそらくは寒かった立春の日である▼春は名のみの……の歌詞は難しかったが旋律は心に残った。様々に歌われる曲だが、女声コーラスが一番ふさわしく思われる。独りのハミング、低唱もいい。知らず知らず口をついている。もしこの歌がなかったら、春待つ季節の唇は随分さみしいことだろう▼きょうは立春。とはいえ名歌そのままの、名ばかりの節目である。強い寒気が流れ込み、日本海側は雪が降りしきる。太平洋側も冷たい風が鼻の先を抜けていく。それでもきょうを境に、冷え込みも「余寒」と呼ばれるようになる▼二十四節気をさらに分けた七十二候では、いまごろが「東風(はるかぜ)解凍(こおりをとく)」にあたる。中国唐代の大詩人、白居易にも一節がある。〈池に波紋有りて氷尽(ことごと)く開く/今日知らず 誰か計会(けいかい)するを/春風春水一時に来(きた)る〉▼池の氷が解けてさざなみが立つ。いったい誰が計らったのか、春風と春水が一緒に来るようにと――そんな意味だという。冬の中から約束を果たすようにやってくる春。自然の摂理へのおおらかな畏敬(いけい)を詩人はうたう▼氷がとけたら何になる? テストである子が「水になる」ではなく「春になる」と答えたという話は、虚実はおいてほほえましい。早春賦の恩師ならマルをもらえるような気がする。春よ来い。

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