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高速無料化―小規模でも賛成できない

 国土交通省が高速道路の無料化を一部区間で6月をめどに始めると発表した。利用者には喜ばしいが、多くの問題点を置き去りにして進めるやり方で、賛成はできない。

 高速無料化は、昨夏の総選挙で民主党が政権公約の柱の一つにした政策だ。まず「社会実験」として全国の高速道路の2割弱に当たる37路線50区間、約1600キロを無料化の対象にするという。

 無料化プランの責任者である馬淵澄夫国土交通副大臣は「地域に貢献するであろう路線を選定した。一定程度の経済効果を生むのではないか」と、記者会見で利点を強調した。

 ドライバーには朗報で、対象地域の観光施設などにもプラスだ。しかし、政策には光と影の両面がある。さまざまな世論調査で、高速無料化に対する反対の声が多いのも、マイナスの影響を心配すればこそだろう。

 高速無料化は基本的に自動車利用を増やす政策で、鳩山政権が力を入れようとしている温暖化対策と矛盾する。これはマイカーによる二酸化炭素の排出が増えるだけではない。

 競合する鉄道や路線バス、フェリーなどの公共交通機関の経営にも響く。これらは本来、温暖化対策として強化すべきものだが、逆に圧迫されてゆく。存続が危ぶまれている地方の公共交通機関の経営には即座に深刻な影響が及び、通学や高齢者など地域住民の足が奪われる心配もある。

 たとえば全国のJRで最小規模のJR四国は、路線維持のために節電など涙ぐましい経費削減の努力を続けてきた。高速を無料化されたら、「これまでの努力はひとたまりもない」と、松田清宏社長はいう。こんどの「実験」でも、競合する松山道と高知道が無料化の対象となるため、かなりの影響が避けられない。

 深刻な財政難のなかで巨額の財源を投じ続けなくてはならないことも、高速無料化の大きな問題だ。

 来年度の無料化に必要な予算は1千億円。鳩山政権は実験で効果や影響を検証し、2012年度に首都高速と阪神高速などを除く全国で原則無料化に移行する構えだが、それには毎年度最大1.8兆円の財源が必要となる。

 経済効果といっても、高速道路沿線がにぎわう代わりに在来線沿いの地域がさびれるかもしれない。

 鳩山政権は、この巨額のお金で社会保障や教育の強化など、もっとほかにすべきことがあるのではないか。

 国の財政が赤字を垂れ流し続けている現状を考えれば、まずは高速無料化という政策を事業仕分けの対象として吟味することが先決だ。

 無料にしてきた欧米の国々でも、環境対策から有料化の流れが強まっていることも考えてほしい。

新幹線停電―安全のボルト締め直せ

 先週末、東京―新大阪間の新幹線が停電で3時間半も止まり、車中や駅で、多くの人がイライラを募らせた。世界に誇る精緻(せいち)なシステムを止めた原因は4個のボルト。実は背筋が寒くなるような事態だった。

 15万人近くが影響を受けた事故は、初歩的な車両整備のミスから起きた。事故の2日前、東京・大井車両基地で作業員がパンタグラフの部品を交換したときに、ボルトをつけ忘れていたのだという。

 重さ10キロを超すパンタグラフの部品が固定されないまま、1千キロ以上も走行していた。もし対向車両とすれ違う時や市街地で脱落していれば、大事故になった恐れもあった。

 部品交換にあたったのはJR東海の中堅と若手社員2人で、確認役のベテラン社員も見落としたらしい。人は誰でもミスを起こす。問題はミスを幾重にもチェックし、未然にトラブルを防ぐ仕組みが抜け落ちていたことだ。

 JR東海の説明では、作業が済んだかどうか点検表に記録することも、残ったボルトの数を付き合わせるようなことも今回はなかったという。航空機整備や原子力発電所など、大勢の人の命にかかわる現場では当たり前に行っている手順だ。

 大事故につながらなかったのは運がよかったからにすぎない。JR東海は今回の件を警鐘と重く受け止め、整備態勢を総点検すべきだ。背景に構造的な要因はないかという分析も必要だ。

 新幹線は今年、開業46年を迎える。国鉄技師出身でJR東日本会長まで務めた山之内秀一郎氏は「技術者たちの持っていた安全に対する夢を実現したのが新幹線だった」と記している。

 超高速の乗り物を安全に正確に走らせる。新幹線は、鉄道技術の頂点を極めようとする挑戦だった。

 列車間距離などに合わせて速度を制御するATC、総合指令室で列車の運転状況を監視するCTC。こうした高度なシステムを、綿密な車両整備や線路保守が支えてきた。様々なトラブルや震災を経ながらも、これまで乗客の死亡事故は一度も起こしていない。

 ただ、いまや開業時とは比べものにならないほどダイヤは過密化した。橋や軌道は老朽化が進む。団塊世代が抜け、技術をどう受け継ぐかという問題もある。これを機会に初心に戻り、安全思想を鍛え直してほしい。

 JR東海はリニアモーターカーや新幹線で米国市場に参入しようとしている。安全性に裏打ちされた高速鉄道技術は、日本の国際競争力を支える柱の一つとして期待されている。

 日本のものづくりを象徴してきたトヨタは、米国などで大量リコールが相次いだ。慢心はないか。安全にかかわるすべての現場で、足元のボルトをいま一度点検し、締め直す時である。

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