眺めていると深い安らぎを覚えるから不思議だ。ゆったりとしたパワーも伝わってくる。東京国立博物館で開催中の「土偶展」に勢ぞろいした、縄文時代の偶像たちである。力強くてユーモラスで、どこか悲しげな姿が人々の心を打つ。
▼土偶にどんな役割があったのか、はっきりとは分からないという。しかし女性の特徴をうんと誇張した造形や奇抜な表情には、生命をいとおしむ気持ちがこめられているに違いない。長命や安産を祈り、食の豊かなることを願った縄文人の精神世界が知れる。厳しい自然と闘いながら、この時代は1万年も続いた。
▼もっとも、最近の研究は縄文のイメージを大きく変えつつある。弥生時代に始まったとされてきた稲作は、じつは縄文前期までさかのぼれるらしい。広場を備えた大きな集落も現れていたというし、遠方との交易もなかなか盛んだったようだ。よくよく土偶の数々を見直せば、なんと巧みなアートでもあることか。
▼展覧会の花形のひとつは、昨年国宝に指定されたばかりの「合掌土偶」だ。うずくまって両手を合わせ、ひたすら祈りをささげているように見える。しかし、それも現代人の解釈ではあろう。かの時代の作者は何か意外なポーズをかたどってみたのかもしれない。想像力をかきたててやまぬ、われらが先祖なのだ。