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天声人語

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2010年2月3日(水)付

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 一門といい破門といい、相撲界の言葉は古めかしい。伝統を守るための古めかしさならいざ知らず、古いこと自体が伝統になっては時代からこぼれる。日本相撲協会の理事選挙を見ていて、昔ふうに「入れ札(ふだ)」と呼びたくなる気分にかられた▼作家の菊池寛に「入れ札」という話がある。上州から信州へ落ちていく国定忠治の一党の話だ。誰もが忠治について行きたいが、大勢では目立ってしまう。やむなく3人に絞る投票をする。子分の葛藤(かっとう)を巧みに描いた好短編である▼小説ではあるが、その入れ札とて無記名で行われた。だが相撲協会の理事選では、立会人に票を見せるよう求める声が出たそうだ。退けられたが、その古さに驚く。そもそも3期連続で無投票だった。苔(こけ)むしたイメージが協会を包んでいる▼劣勢とされた貴乃花親方の当選は「奇跡が起きた」のだという。「誰の一票」まで勘定できた村社会だが、「一門栄えて相撲廃(すた)る」では本末転倒になってしまう。危機感から流れた票もあったように聞く▼古い角界には謀反と映るかもしれない。だが「謀叛(むほん)人となるを恐れてはならぬ。新しいものは常に謀叛である」という徳冨蘆花の言葉もある。新しいものを期待していいのか、親方自身の言葉をもっと聞きたいものだ▼鯨に呑(の)まれたのに気づかず安穏(あんのん)と泳ぐ小魚のたとえがある。巨漢ぞろいの角界だが、これまでの危機への鈍感はその小魚を思わせた。朝青龍の件もあってファンの目はいよいよ厳しい。新風を呼ぶ志のある謀反人が、本当ならもう2、3人は欲しい。

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