米国のオバマ政権が台湾への新たな武器売却を決めたのに対し、中国は米国との軍事交流の一部中止など報復措置を打ち出した。金融危機の影響が残るなかで米中関係が緊張すれば、世界経済にも波紋を引き起こしかねない。
米国の決定の根底には、中国の軍拡によって中台間の軍事バランスがますます中国の優位に傾いている、との懸念がある。2008年に台湾で馬英九政権が発足してから中台関係は改善しているが、中国は今も台湾への武力攻撃の可能性を明言し、台湾に向けて配備したミサイルは1000発を超えたとみられる。
地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の供与はこのミサイル増強に対応した措置だ。一方でオバマ政権は台湾が切望していた新型のF16戦闘機や潜水艦の売却には踏み切らず、中国に一定の配慮を示した。
中国国内では、中国が保有する米国債の売却を求める声がネット上で飛び交うなど、米国への強い反発が出ている。胡錦濤国家主席はじめ指導部は対米関係の過度の緊張は避けたいのが本音とみられるが、国内対策としてある程度は強硬な姿勢を示さざるを得ないとの見方が強い。
ただ中国が「重要な国際・地域問題での米中協力への影響は避けられない」と表明したのは心配だ。北朝鮮とイランの核問題、金融危機の克服、地球環境問題など米中の協調が必要な課題は多いからだ。
オバマ大統領の提唱で4月にワシントンで開く核安全保障サミットに胡主席が出席しないとの観測も浮上しているが、中国は世界の安定と繁栄に建設的な役割を果たすとの約束をたがえるべきではない。
人民元レートや人権問題、中国の検閲に対するグーグルの異議申し立てなど米中間では火種が多い。今年は米中間選挙の年でもあり、世界経済にとって最大の不安材料は米中関係だとの分析も出ている。米中双方に賢明な対応を求めたい。
中国の国力が高まるにつれ、中国が対外的に強硬姿勢を強めるのではないかとの不安が世界に広がっている。今回の問題での対応は試金石ともいえる。中国の軍拡への懸念も含め、日本政府は率直な考えを中国に伝えていく必要がある。