「質」という字は、おのを表す2つの「斤」と「貝」から成る。白川静さんの「常用字解」によれば、「貝」の形は古代中国で儀式の道具に使った鼎(かなえ)から来ている。質とは、鼎にふた振りのおので、重要な約束を刻むことなのだそうだ。
▼とすれば、品質とは、製品の安全性や使いやすさで、企業が顧客とかわす誓約といえるだろう。トヨタ自動車の品質問題は米国から中国や欧州に広がり、ホンダの車にも海外で製品不良が見つかった。消費者との約束を破ることになった原因を急いで究明してほしい。手がかりも、「質」の字にあるかもしれない。
▼昔、おのは、はかりの重りにも使っていた。その「斤」がならぶ質の字は、天秤(てんびん)の左右に同じ重りが載り、釣り合っている姿を表している――。品質管理の専門家からそう聞いたことがある。生産する量を増やすなら、その分、従業員の教育や部品の検査にも力を入れるというように、バランスが大事との意味だ。
▼日本の自動車メーカーが世界で生産を伸ばしてきたなかで、定評のあるはずの品質管理に抜かりはなかったか。ほかの業種の日本企業も、新興国を中心に海外市場の開拓は課題だ。事業の手を広げる一方で、品質にもきちんと目配りしているだろうか。「質」という漢字は企業に警鐘を鳴らしているようにみえる。