官民の共同出資で設立した企業再生支援機構の存在感が増している。会社更生法を申請した日本航空への支援を決定したほか、PHS最大手のウィルコムも支援機構を活用して再建を進める方向だ。
だが、巨額の公的資金を扱う支援機構が、経営不振企業の一種の「駆け込み寺」として機能することには異議がある。
企業経営の原則が自己責任であることは言うまでもない。
企業の生み出す財やサービスが社会から必要とされるなら、会社は発展するが、社会が「いらない」と判断すれば、存続が揺らぐ。その厳しさが経営に規律をもたらし、経済全体の活性化にもつながる。
仮にどんな企業でも公的機関が救うことになれば、経営の怠慢を招くのは必至だ。再編や淘汰、新規参入による新陳代謝も進まず、産業の構造転換も足踏みするだろう。
日航については、私たちも再建過程での政府の一定の関与はやむを得ないと考えてきた。自力再建はほぼ絶望的で、かつ他の民間企業が日航の再建スポンサーとして名乗り出ることも考えにくかった。
一方で日航が飛行機を飛ばせない事態になれば、「空の足」は大混乱をきたす。それを避けるには、法的整理というけじめをつけた上での公的支援が現実的な道筋だった。
一方、ウィルコムはどうか。同社のPHSサービスは使用電波が微弱という特長があり、病院などで重宝されているが、ほかに代替手段がないわけではない。加えて、携帯大手のソフトバンクが出資を含む再建支援に意欲を示しているという。
つまり「サービスの代替性」と「民間スポンサーの有無」の2点で、日航とはかなり事情が違う。そうした企業に公的資金を注ぎ込むのは、慎重の上にも慎重であるべきだ。
一昨年秋以降の金融危機で世界的に官と民の関係は変質し、米政府によるゼネラル・モーターズ支援など公的な企業救済が珍しいことではなくなった。
だが、危機の発生から1年半が過ぎ、世界経済は平常に復しつつある。いつまでも政府依存を続けるわけにはいかないことを、各企業は銘記すべきである。