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貧困ビジネスの実態をうかがわせる事件が起きた。5都県の21施設で生活保護受給者らに宿泊の場所と食事を提供している「FIS」の経営者ら3人が、3年間に5億円もの所得を隠していたとして、名古屋国税局が検察に所得税法違反容疑で告発した。
こうした施設は、社会福祉法で「無料低額宿泊所」という。届け出があるものだけで全国に439施設あり、1万4千人が利用している。無届け施設も全国に千以上ある。
企業の元社員寮などを改造し、住居がない人に居場所や食事を提供する。ホームレスへの生活保護適用が進むにつれて急増した。路上生活の後で直ちに自活できない人にとって一定期間、必要なサービス、という面はある。
NPOなどが良心的に運営している施設がある一方で、自治体に届けるだけで正規に開設できることもあって、保護費の上前をはねるような悪質業者が紛れ込むすきも多い。
FISの寮は、6畳間をベニヤ板で仕切って二つの個室とし、食事はレトルト食品やめん類が多かったという。音が漏れないようテレビはイヤホンで聴く人もいる。月約12万円の保護費から9万円前後も徴収される。これで困窮者が再起できるだろうか。
各地でトラブルが起きている。千葉市でもFIS系の施設が「勝手に銀行口座を作って保護費を天引きされた」と元利用者から刑事告発された。厚生労働省は全国を調査し、悪質業者を公表してほしい。
直視したいのは、もうけ優先の業者にまで結果的に頼らざるをえなくなっている貧困政策の貧しさである。
生活保護の申請を窓口で厳しくはねようとする役所の「水際作戦」は減ったようだ。しかし全国の受給者が95年の90万人から、いま160万人にまで膨らんだのに、自立支援をするケースワーカーや公的な収容施設、安い公営住宅が大幅に不足している。
ケースワーカーの標準配置数は本来80世帯に一人だが、たとえば名古屋市の場合、120世帯を担当している。これでは一人ひとりに安い家を探したり、その後の仕事や生活の再建を支援したりするのは難しい。そんな間隙(かんげき)を悪質な業者が突いたのではないか。
厚労省は昨年10月、対策検討チームを立ち上げた。規制を強化したり、優良施設を育成するための補助金を創設したりすることが課題だろう。
施設の質を上げる施策は当然だ。また国土交通省とも協議し、安い公営住宅の提供など住宅政策との連動も考えるべきだ。公営住宅の新築は難しくても、一般の空室を借りる手もある。
生活保護は最後のセーフティーネットだ。支給しただけでその後の支援が不十分では、保護費を巻き上げるような業者がいくらでも現れる。
時速581キロの世界最高記録を持つJR東海のリニアモーターカーは、いま最先端をゆく高速鉄道技術だ。これが将来、米国をはじめ世界で疾走する可能性が出てきた。
オバマ米大統領は、連邦予算を投じて13地域で高速鉄道を整備する方針を打ち出した。米国史上初めての全米規模の高速鉄道網となる。JR東海はこれに合わせて、既存の新幹線だけでなく、リニアでも米国市場に参入する方針を表明した。
21世紀は鉄道復権の世紀となりそうだ。飛行機や自動車より温室効果ガスの排出が少ない。技術革新により時速300キロ超で大量・多頻度運行ができる。そんな利点が評価され、世界中で高速鉄道計画が目白押しだ。
欧州や中国を横断する鉄道建設が進むほか、ブラジルやインド、ベトナムなどでも導入の動きがある。
いま高速鉄道の営業運転の最高速度はせいぜい時速350キロだが、リニアはそれをはるかに上回る時速500キロ運行が可能だ。世界市場で「超目玉商品」となる資格は十分にある。
日本の鉄道は携帯電話と同様、いわゆる「ガラパゴス技術」だった。世界トップ水準なのに、世界市場で売れない。日本仕様にこだわるあまり、島国で発達を続ける。そんな内向きビジネスだったのだ。
JR東海がその殻を破り、世界市場に打って出るビジネス戦略に転換したことを評価したい。リニアは、旧国鉄時代から半世紀近く研究・開発を重ね、2025年をめどに東京―名古屋間の建設をめざす。だがそれを最優先すれば、当分は日本だけの建設にとどまるところだった。
「門外不出」のリニア技術が米国で実用化されるならば、日米のきずなを経済と地球温暖化対策の両面から強める効果もあるのではないか。
米国はクルマ大国、航空大国であり、高速鉄道の整備が遅れた。JR東海は、米政府が計画する13路線以外でも地形地質や採算性などの予備調査を進め、ワシントン―ボルティモア(65キロ)など3路線でリニア方式、フロリダ州タンパ―マイアミ(530キロ)やラスベガス―ロサンゼルス(440キロ)など4路線で既存の新幹線方式を売り込む方針だ。
今後は日本の鉄道車両メーカーや大手商社と協力し、日本の企業連合で受注競争に臨むことになろう。最大のライバルは、車両や軌道、信号設備システムから運行まで一貫して請け負う総合力のある欧州勢だ。中国企業も進出をうかがっている。
米国市場の先には、アジアや中南米の新興国市場がある。日本の技術が新興国の内需をどれだけ取り込めるか。リニアの未来は、日本の成長戦略の先行きを占う試金石にもなる。