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時効撤廃―人権の重さを賢く法に

 殺人など死刑にあたる罪の時効を撤廃し、強姦(ごうかん)致死や危険運転致死などの罪についても今の時効期間を倍に延長する。長く議論されてきた「時効」について法務省が改革案をまとめた。今国会に法案が提出される方向だ。

 未解決のまま時効を迎える殺人事件は年に50、60件を数える。時効制度は明治初期にできたが、捜査の手法や技術、そして被害、加害をめぐる社会の人権意識は大きく変わった。時代変化の中での改革案を支持したい。

 時効の撤廃をめぐってはなお、さまざまな考え方があるが、大事なことは国の法制度として犯罪にどう向き合うかということだろう。

 時効を見直すことで、犯罪を許さないという強い姿勢を示す意義は大きい。再犯や類似犯罪を防ぐという意義もある。欧米ではすでに重大事件の時効を廃止している国が少なくない。

 難題は残る。時効見直しを過去の事件にもさかのぼって適用するかどうかだ。法務省案では、実施時点で時効になっていない事件にも適用するとしている。これも一理ある。

 だが、ある時点で法的に許された行為はさかのぼって罰しない、という憲法の原則に照らして妥当かどうか。時効の撤廃や延長は処罰にあたるのではないか。国会での真剣な憲法論議を望みたい。

 時効制度の変更にあたって法務省と国家公安委員会に望みたいのは、冤罪を防ぐ制度も同時に整備することだ。

 時効制度が許容されてきたのは、発生から長期間が過ぎると証拠が散逸してしまい、公正な裁判が難しくなるためだ。近年、DNA型鑑定の精度が飛躍的に上がったため、現場に残された犯人のDNA型を保存しておけば、時間がたっても容疑者を特定できることが可能になった。このことが時効撤廃論に弾みをつけた。

 捜査中に採取したDNA型の試料は、再鑑定に十分な量を最適の環境で保管することを、捜査当局に法的に義務づけることが必須だ。法務省はそのための法的な検討を並行して進めてもらいたい。

 犯人とは別人のDNA型が紛れ込む恐れもある。犯人ではない人が逮捕、起訴されても、アリバイなど無罪を立証する証人はすでに亡くなっていて、DNA型鑑定をもとに自白を迫られるという事態が起きかねない。

 DNA型鑑定を過信してうその「自白」を強いたために起きた「足利事件」のような冤罪は、二度とあってはならない。それを防ぐには、一つには、取り調べの様子をすべて録画・録音する全面可視化を、同時に法制化することだ。捜査の誤りをできるだけなくすために、可視化の対象は容疑者だけでなく、未解決事件の被害者や目撃者まで広げるべきではなかろうか。

スリランカ―紛争後への新たな懸念

 インド洋に浮かぶ島国スリランカ。この20年余り、民族対立を背景に、おびただしい犠牲者を出してきた内戦がようやく昨年終わった。新生スリランカの再出発のための大統領選があり、現職のラジャパクサ大統領が対抗馬のフォンセカ前政府軍参謀長を退け、再選を果たした。

 日本政府は、この国の安定のために10年近く前から紛争の調停に力を入れてきた。7年前には復興開発への国際会議を東京で催した。

 内戦は反政府武装勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)が壊滅することで終わった。今後の国づくりで日本が手助けできることは多い。

 両候補は共に、LTTEを相手に戦ってきた指導者だ。ラジャパクサ氏は多数派シンハラ人の支持を多くつかんだ。フォンセカ氏は少数派タミル人の支持を得たが、及ばなかった。

 勝利したラジャパクサ大統領は、荒廃した国土の復興と平和定着への努力を国民に呼びかけた。しかし確かな道筋はまだまだ見えない。

 激戦地から命からがら逃れてきた30万人近いタミル人避難民は昨年末にやっと北部のキャンプからの帰還を許された。だが10万人近くは地雷が埋まったままの故郷に戻れないでいる。内戦下で起きたさまざまな政治的弾圧の修復も容易ではない。

 近く予定されている総選挙で民族対立のムードが再び高まれば、国民の亀裂はさらに深まりかねない。

 日本政府は、戦争で破壊された橋の修復や地雷除去に乗り出している。こうした平和構築と経済復興への取り組みを今後も強めなければならない。

 気になるのは、再選されたラジャパクサ大統領がこのところ、欧米諸国に反発し、対抗するかのような姿勢を強めていることだ。

 欧米諸国は、タミル人避難民の待遇改善や言論の自由の擁護を求めて厳しい注文をつけてきた。国連人権理事会では昨年、こうした問題で欧米諸国とスリランカが激しく対立、他の途上国を巻き込んだ大論争となった。

 さらに近年、ミャンマー(ビルマ)の軍政指導者タン・シュエ氏やイランのアフマディネジャド大統領がこの国を訪問している。人権や核を巡って国際社会で孤立を深める国々との関係強化は何を意図してのことなのか。

 中国は、インド洋に面する南部での大型港湾の建設をはじめとする援助を拡大しており、米議会から懸念の声があがっている。

 この国の行く末は、多くのタミル人が住む隣国インドの安定に直接影響する。スリランカの対外政策は、インド洋での米中印の存在感をめぐる地政学にも微妙な影響を与えるだろう。

 日本政府はこうした要因も念頭に置いて、支援を続けてもらいたい。

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