検察の不起訴処分の当否を判定する検察審査会(検審)に起訴権限を与えた新制度が、初めて使われる。
2001年に兵庫県明石市の花火大会で起きた歩道橋事故を巡り、神戸地検が不起訴にした、当時の県警明石署副署長を神戸第2検審が「起訴すべき」と2度にわたって議決したのだ。新制度により副署長は業務上過失致死傷罪で起訴される。
刑事訴訟法は、起訴権限を原則として検察官だけに与え、また検察官は、起訴できる場合でも、犯罪の軽重や容疑者の境遇、性格などを考慮して起訴しないことができる、と定める。「起訴独占主義」「起訴便宜主義」と呼ばれる原則だ。
歩道橋事故では、警察、明石市、警備会社の3者から計5人を起訴。警察官は、副署長の部下の地域官だけを罪に問うた。遺族らはこの処分が不当だと検審に申し立てた。
検審制度は、新憲法下でGHQ(連合国軍総司令部)が「検察を民主的に規制する制度」を求め1948年にできた。以来、有権者からクジで選ばれた審査員は延べ五十数万人、検審の議決を受けて検察が起訴に転じた例は1400件を超す。
旧制度ではなかった、起訴権限は、一連の司法改革のなかで「国民の司法参加を拡充する方策」の一つとして検審に与えられ、昨年、裁判員制度と同じ日に施行された。
検察官は、裁判で有罪が得られると確信した容疑者にしぼって起訴をする。抑制的な権力行使は望ましいが、半面、立証の難しい事件で刑事責任の追及をためらう懸念もある。
歩道橋事故の議決書は検審の立場をこう説明した。「有罪か無罪かという検察官と同様の立場ではなく、市民感覚の視点から、公開の裁判で事実関係および責任の所在を明らかにし、事故の再発防止を望む」
裁判員制度と同様に新しい検審制度は、法律家任せの刑事司法の運営に国民の常識、正義感、価値観を反映させる手段として期待できる。
これをうまく機能させるには、審査補助員の資格で検審の議論を助ける弁護士の責任がまず重大だ。また検察には、検審議決による起訴で検察官役を務める弁護士に十分に協力する責務がある。仮にもメンツにこだわることがあってはいけない。