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「検審」起訴議決―市民の良識を支持する

 不起訴にこだわってきた検察の判断を覆して、市民の良識が求めたのは法廷での真相究明だった。

 兵庫県明石市で2001年7月に起きた歩道橋事故をめぐって、神戸第二検察審査会は全国で初めて、強制的に起訴する議決をした。裁判所から指定された弁護士が検察官役になって、当時の明石署副署長が業務上過失致死傷罪で起訴されることになった。

 検察官の不起訴の判断に誤りがなかったかどうか、それを国民の代表がチェックするのが検察審査会だ。昨年5月に改正検察審査会法が施行され、「起訴相当」が2度議決されれば必ず起訴することになった。

 この事件では、改正法が施行されて2度目の起訴相当の議決だが、施行前を含むと実に4度目の議決となる。

 明石市が主催した花火大会で起きたこの事故は、11人が亡くなり、247人がけがをする大惨事だった。

 警備にあたった12人が兵庫県警から書類送検された。神戸地検は現場で指揮した明石署地域官や市の幹部ら計5人を起訴し、署長(その後死亡)と副署長は不起訴にした。しかし、署の幹部は警備計画を十分確認せず、当日も事故を避ける措置をとらなかった。検察審査会はそう判断して副署長の過失を問うことにした。

 指定弁護士は地検などの膨大な捜査資料を得て、公判も担当する。

 当時の警備計画は、7カ月前の花火大会のものを丸写ししたようなものだった。地検は当日の過失だけを問うているが、計画の作成段階にまでさかのぼらないと、事実の解明は難しい。

 地検は当初、署幹部の刑事責任も追及する方針だったが、高検などとの協議をへて見送り、度重なる起訴相当の議決にも方針を変えなかった。そこに警察への配慮はなかっただろうか。

 「有罪か、無罪かではなく、公開の裁判で事実関係と責任の所在を明らかにする」という検察審査会の考えを支持したい。そのために必要なすべての証拠を提供し、弁護士が補充捜査をするときは全面的に協力するのが地検の役目である。

 裁判員裁判と並ぶ司法改革の柱の一つが検察審査会の権限強化だ。検察官が独占してきた起訴、不起訴の決定に市民の意見を反映させるのが狙いだ。不起訴にしてもほとんど理由も明らかにしない。そういう検察の処分のあり方を、揺さぶるてこになりそうだ。

 政治家をめぐる検察の動きにも影響を与えている。西松建設がダミー団体経由で自民党二階派のパーティー券を購入していた事件では、検察審査会の起訴相当の議決を受けて東京地検が判断を見直し、同社元社長を政治資金規正法違反の罪で追起訴した。

 普通の人々の感覚が司法を動かし始めている。公判に注目していきたい。

オバマ演説―逆境でも内向きを排して

 「チェンジ(変革)を実現できるか、確信を持てなくなった人が多くいる」。オバマ米大統領は初めての一般教書演説で、こう率直に認めた。

 熱狂的な支持を受けて当選したオバマ氏はほぼ1年前、同じ議会の壇上で「我々は再生する」と力強く宣言したものだ。

 だが、その後、不況からの脱出が軌道に乗ったとはとても言い難い。この日の演説も3分の2が、米国経済の立て直しにあてられた。

 「2010年の一番の焦点は、雇用だ」と大統領は宣言した。米国の輸出を5年間で倍増させ、200万人の雇用を創出すると公約した。

 失業率は10%に達し、大統領の支持率は低落している。今月のマサチューセッツ州の連邦上院補選では、民主党の強固な地盤であるにもかかわらず、与党候補が敗北した。政権への有権者の不満が高まっているのは明らかだ。今年11月の中間選挙を控えて、演説には危機感があふれていた。

 中間所得層へのアピールが欠けてきたという反省なのだろう。子育て世帯への支援策や中小企業向けの新規減税を打ち出した。高速鉄道網の建設などインフラ投資や、代替エネルギー開発による雇用創出も進めていく。

 「米国が第2位になることは受け入れられない」と、大統領は経済力でも米国の地位を維持する決意を示した。

 しかし、財源には限りがある。雇用に直接の効果があがるような新たな大型の景気対策をうつ余裕はすでにない。過去最大規模にふくらんだ財政赤字への懸念も募る。大統領は一部の政策支出を3年間凍結する一方、超党派の委員会を設置して財政規律を保つとも語った。

 こうしたジレンマは、日本を含む先進諸国に共通する苦しみだ。そして、いくら大胆な成長戦略を描いてみせても、雇用や景気への成果が生まれてくるまでには時間がかかる。

 オバマ政権の誤算は、経済危機対策で巨大金融機関を救済しながら、日々の暮らしにあえぐ勤労世帯への手当てが後手に回ってしまったことだろう。社会的弱者へのセーフティーネットを完備しないままでは「米国の再生」はない。医療保険改革も議会でもみくちゃにされ、めどが立たない状態だ。

 残念だったのは、対外政策で新機軸がほとんどなかったことだ。テロ対策の強化や核軍縮への努力は強調したが、地球温暖化対策での新たな国際枠組みづくりの問題は素通りされてしまった。経済の苦境を考えれば内政重視は理解できることだが、米国が内向き一辺倒になっては困る。

 「われわれはあきらめない」とオバマ大統領は演説で述べた。新大統領は米国を変え、世界を変える。そんな私たちの期待を忘れてほしくはない。

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