政府はハイチ大地震の復旧支援のため陸上自衛隊を派遣する方針を決めた。現地で国連平和維持活動(PKO)に加わる。国内での震災復旧の蓄積を生かして、目に見える国際貢献を果たしたい。
カリブ海の島国ハイチで起きた大地震の死者は十万とも二十万人ともいわれる。発生から二週間たち今後は復旧活動が中心となる。
ハイチでは反政府勢力の活動が先鋭化して、二〇〇四年にPKO部隊が駐屯を始めた。地震でPKO要員八十人以上が死亡するなど壊滅的な被害を受けた。国連は三千五百人の増派を決め、日本政府も呼応した。
派遣は陸自の施設部隊を中心に計約三百人で、二月上旬の活動開始を目指す。がれきの除去や道路補修などにあたる。家族や家を失った人たちに希望を与える活動を望みたい。政府も計七千万ドルの復興資金を拠出する。
民主党政権は国連を中心とした国際貢献を深めたいとしている。海上自衛隊によるインド洋での補給活動から撤退したが、ハイチ支援はそれに代わる人的支援としてアピールできる。
懸念材料もある。PKO参加五原則では「紛争当事者間の停戦合意」が必要だが、ハイチでは停戦合意はない。だが防衛省は「武装勢力は組織化されておらず、現地での事件は犯罪集団による暴行などであり、武力紛争ではない」と説明し、問題はないとの見解だ。
だが地震が起きる前でも、外務省の情報でハイチの主要都市は治安が悪く「渡航延期を勧める」とされていた。震災後は略奪や暴行が増え、首都ポルトープランスでは二十五日、配給食料を求めて暴徒化した民衆に国連部隊が威嚇射撃をして負傷者が出た。
震災復旧という緊急性は理解するが、自衛隊員らが武力衝突に巻き込まれる恐れはないのか、武器使用は要員防護のための最小限とする原則は守られるのか。
自衛隊派遣の目的は何よりも被災者への人道支援であり、国威発揚が先に立つべきではない。国会審議を含めた十分な議論を望む。
PKOは本来、停戦や軍撤退の監視が主要任務だが、近年は多様な活動が求められている。自衛隊はカンボジアでは選挙監視、東ティモールでは道路復旧や技術者養成など非軍事面で貢献した。
ハイチPKOは新しい国際貢献の形をつくる機会になるが、安全確保は十分か、派遣後も繰り返し検証する慎重な対応が必要だ。
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