米軍普天間飛行場の移設問題で、平野博文官房長官が移設先住民の民意は斟酌(しんしゃく)する必要はないと述べた。沖縄県名護市長選では受け入れ反対派が当選したばかり。民意を踏みにじる発言は許されない。
名護市長選の翌二十五日に、官房長官の口からこんな発言が飛び出すとは、思ってもみなかった。
平野氏は、米軍キャンプ・シュワブ(名護市辺野古)沿岸部に移設する日米合意の受け入れ反対を掲げた稲嶺進氏の当選を受けて「(移設先を)検討していく上で、そのことも斟酌してやらなければいけない理由はない」と発言。
二十六日には、移設先住民の合意が得られなくても「法律的にやれる場合もある」と、法的措置による決着の可能性にも言及した。
平野氏はこれまでも移設先について「ゼロベースで検討する」として、辺野古を排除していない。
安全保障は、政府が責任を持って判断すべき国の基本政策だ。市長選後の一連の発言は、適地が見つからず、国の責任で辺野古に決着させる場合に備え、予防線を張ったとみることもできる。
同時に、在日米軍基地の約75%が集中する沖縄県民の負担軽減も、斟酌が必要な重要課題だ。
民主党は政権交代を果たした昨年の衆院選で県外・国外移設の検討を公約に掲げ、鳩山由紀夫首相は沖縄県民の過重な基地負担に思いを致す発言を繰り返している。
にもかかわらず、市長選直後に民意は無関係だと言わんばかりの発言は、内閣の要である官房長官としては不見識極まりない。
当選証書を受け取った稲嶺氏は二十七日、「そんなことが本当に許されるのか。政府の目線はどこにあるのか」と反発した。
野党ばかりか、与党内からも「政治家として感覚を疑う。非常識だ」(照屋寛徳社民党衆院議員)との声が出るのも当然だ。
平野氏は今月初め、鳩山首相に「私に任せてほしい」と、自らが前面に立って調整することを申し出た。その心意気は買う。
しかし、平野氏の役割は辺野古での決着に向けた環境整備ではなく、公約通りに県外・国外移設の検討に本腰を入れ、沖縄以外の国内移設を決断した場合に地元住民や辺野古を最善とする米政府の説得に全力で当たることだ。
民主党政権に沖縄の負担軽減を委ねたのも国民の民意だ。民意を大事にしない政権は、必ず民意のしっぺ返しを受けることを肝に銘じるべきであろう。
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