日本経団連の御手洗冨士夫会長と連合の古賀伸明会長との労使トップ会談が開かれ、今春闘がスタートした。不況を背景に定期昇給凍結論も出ているが、知恵を絞って賃上げを実現してほしい。
民主党政権が人間重視の政策を打ちだしても、経営側の春闘方針は少しも変わらない。
御手洗会長は「雇用の安定が最重要課題。経営実態と支払い能力を踏まえて着地点を探していきたい」と語り、今年は定昇凍結もあり得ると示唆した。
これに対して古賀会長は「賃金カーブ維持は最低限の方針だ。働く者の不安は払拭(ふっしょく)できず、個人消費は落ち込みデフレ要因にもなる」と述べ定昇の実施を求めた。
経団連が先週発表した「経営労働政策委員会報告」は賃金抑制で貫かれている。総額人件費管理の徹底に加え、定昇や家族手当など賃金制度の見直しにも言及した。家族手当は、政府の子ども手当の支給を理由としている。
景気不安も賃金抑制の理由だ。金融危機から回復してきたとはいえ、景気の足腰はまだ弱い。一月の月例経済報告は「日本経済は緩やかなデフレ状況」と、景気下押しリスクの存在を警告する。
だが、経営側の論理の下に賃金を抑制すれば、景気も企業も少しも良くならない。労働者は疲弊して日本の活力を減らすだけだ。
連合は今春闘で「ベースアップの統一要求見送り」と「非正規労働者の待遇改善」を重点方針に掲げた。現実路線への転換は“与党労組”になったことと、昨年春闘での敗北が大きな理由だ。
労働側の定昇要求は妥当なものだ。労働者の所得はずっと減少してきた。年収二百万円以下の低所得層が一千万人以上もいる。正社員も非正規労働者も賃上げが急務であることを裏付ける。
企業にとっても、適切な賃上げは国際競争力の強化に結び付く。従業員の士気を高め技術開発や産業革新を推進して付加価値競争力を強化することだ。
労働者の三人に一人が非正規である。雇用不安の拡大と低賃金化の温床になっており、政府は早急に改善策を実行すべきだ。
三月中旬の主要企業の集中回答で経営側が定昇凍結に踏み切れば、その影響は重大である。
景気は失速し日本経済はデフレの悪循環に陥るだろう。逆に家計所得を増やして消費を盛り上げるならば、景気回復の好循環をつくるきっかけになる。苦しい時期の経営者に与えられた責務である。
この記事を印刷する