10年にわたる横綱審議委員を退いた作家の内館牧子さんが、最後の最後にも朝青龍を評して「アスリートとしては150%認めるが横綱として認めていない」とぶちかましたそうだ。千秋楽まで続けた横綱との取組は技能賞ものだろう。
▼いまだに女性は土俵に上がれない。そういう相撲界にあって初の女性横審委員だから、異分子である。が、その期待にたがわず随分暴れ回った印象がある。もっぱら敵役に据えた朝青龍に対しても、行状をしかり飛ばしながら鎧(よろい)の陰からはチラリ「150%」のような褒め言葉がのぞく。なかなかの曲(くせ)相撲だった。
▼ガッツポーズは「絶対にダメ」。「惻隠(そくいん)の情」だの「やせ我慢の美学」だの少々古風な価値観を持ち出して話題だったのは、そんな価値観の総本山が変質したとみな感じていたからだ。「角界の甘さ」とご本人が書いているが、ぬるま湯体質を言挙げしてやまぬ異分子がいることは、どの組織にも大切に違いない。
▼詩人長谷川龍生さんの「ちがう人間ですよ」という一編はこう始まっている。「ぼくがあなたと/親しく話をしているとき/ぼく自身は あなた自身と/まったく ちがう人間ですよと/始めから終りまで/主張しているのです」。人なつこい笑顔を持つ内館委員の舌鋒(ぜっぽう)に、「ちがう人間」の硬骨が見え隠れした。