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ハイチPKO―長丁場の支援の始まり

 大地震で壊滅的被害を受けたハイチの国連平和維持活動(PKO)に、政府は自衛隊を派遣する方針を決めた。

 人道復興支援が目的で、陸上自衛隊の施設部隊を中心に約300人を派遣する計画だ。震災の前から展開している国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)に参加する。

 15万人以上の遺体を埋葬した。200万人が家を失った。現地から伝えられる被害は想像を絶する。発生から2週間近くたっても、食糧も行き届いていない地域が残っているようだ。テントやシートも足りず、路上生活を続けている被災者が50万人もいるという。

 発生直後の緊急支援では、日本が出遅れた感もあった。だが、復興支援はこれからが本番だ。

 鳩山首相は「がれきを撤去して、住宅を建てる仕事がある」と述べた。復旧・復興に人手はいくらあっても足りない。派遣部隊には被災民キャンプの建設などの役割が予想される。早く実施計画を立てて、現地入りしてほしい。

 ハイチの国連PKOは、混乱した政情の安定と民主化が、本来の目的だった。現地警察が機能していなかったので、国連部隊は身代金目的の誘拐を繰り返すスラム街のギャングの取り締まりまで担当していた。

 地震で国連PKO本部も倒壊して、要員に多数の犠牲者を出した。それでもPKO部隊は、現地入りした各国部隊と協力して捜索や救援、治安の確保などにあたってきた。ブラジルなど中南米諸国が主力で、軍人約7千人、警官約2千人、文民も含めて1万人以上のマンパワーは貴重だ。

 国連安全保障理事会は、今後の救援活動に不可欠として、軍人2千人、警官1500人の増派を決めた。自衛隊の派遣は、それにこたえるものだ。

 自衛隊が初めて国連PKOに参加したのは、1992年のカンボジアだった。だが、部隊規模の参加は、2004年までの東ティモールで途絶えていた。日本からのPKO参加は現在、中東のゴラン高原などの39人にすぎず、世界で85番目。いかにも少ない。

 日本には参加にあたって「受け入れ国の同意」などの5原則がある。今回もその枠内の活動となるが、武力紛争への対応とは次元が異なる。武器の使用にしっかりした歯止めは必要だが、治安が悪いことを理由に活動を渋っていては、人道支援はできない。NGOなど民間の援助は先行している。現地の状況が許すならば、警察官や文民の派遣も考えて良いのではないか。

 人口の半数が貧困層という国の再建には、長期にわたる国際支援が必要になる。PKO参加はその最初の一歩に過ぎない。日本は約7千万ドル(約63億円)の拠出を表明した。地震国ならではの支援を目指していきたい。

春闘スタート―働く人すべてが当事者だ

 日本経団連の御手洗冨士夫会長と連合の古賀伸明会長がトップ会談し、春闘の論戦が本格化した。

 深刻なデフレ不況のもと、組合側はベースアップの統一要求を封印し、定期昇給の維持を最優先している。対する経営側は「賃金より雇用」を繰り返し、定昇の凍結もにおわせるなど、人件費の抑制に躍起だ。

 時間外労働の減少やボーナス削減で労働者の手取りの所得は減っている。定昇まで抑え込んでは賃金総額がさらに減り、消費者心理が冷えてデフレを悪化させかねない。経営側はこうした経済全体への影響にも十分に配慮しながら交渉に臨むべきである。

 労使とも重視すべきは、正社員だけの利害ではない。さまざまな形で働く人々の雇用を確保し、賃金や条件を守り、改善することだ。その意味で連合が今年、「すべての労働者の労働条件の改善に取り組む」という旗を掲げたことを高く評価したい。

 まずは傘下の労組が、同じ職場で働く仲間である非正規労働者たちの実態把握を急ぐという。

 非正規を含む労働者全体にいくらの賃金が払われているのか、労使ともほとんど把握していないといわれる。企業の非正規雇用の窓口はモノを買う購買部門などに分散し、派遣切りの温床にもなったとされる。こうした現状を改めることも、労使協議の主題のひとつにしなければならない。

 ところが、経営側の姿勢は全く物足りない。家計を支える非正規労働者の増加という社会情勢の変化に適合しなくなってきた従来型の雇用システムをどう変革すれば新たな労使協調と社会の安定につながるのか、という問題意識が薄いようだ。

 日本の雇用システムや賃金制度は、労使が現場で編み出した知恵が普及したという面が大きい。たとえ「痛み」を伴う改革でも、労使の一致した決断こそが突破口を作るはずだ。昨年、非正規の契約社員の正社員化に踏み切った広島電鉄でも、労使の一体感がバネになった。

 賃金の格差是正は詰まるところ、「同じ労働には同じ賃金が払われる」という原則の導入によって果たされるべきだ。それを一挙に実現するのは難しいが、非正規の人たちを本気で仲間として処遇しようとするなら、手立てはあるはずだ。

 当面は、企業内の最低賃金を引き上げたり、勤務実績をもとに正社員の賃金や処遇と釣り合わせたりする方法で格差是正を図ってはどうか。

 「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」とは、国際労働機関(ILO)の設立趣旨をうたったフィラデルフィア宣言にある言葉だ。

 労使、特に経営側は今こそこれを肝に銘じてほしい。

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