<懈怠(けたい)>という言葉を辞書で引くと、「なまけ、怠ること」とある。一九九六年八月、沖縄県の米軍基地用地の強制使用をめぐり、国が大田昌秀県知事(当時)を訴えた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は強制使用の代行手続きを拒否した大田知事の行為を<懈怠>と表現した▼地主が米軍に土地を貸すのを拒否した場合、知事が国の代理で土地・物件調書に署名する必要がある。国土の1%に満たない面積に、米軍施設の74%が集中する過重な負担を引き受けている県の知事が、やむにやまれずに取った行動は<なまけ>と決め付けられたのだ▼主文の言い渡しは数秒。判決理由の説明はなく、閉廷後、百五十七席の傍聴席を埋め尽くした人たちの怒りが爆発した。大法廷は怒号が飛び交い、騒然とした空気に包まれた場面を思い出す▼あれから十四年。米軍普天間飛行場の移設受け入れの是非が争点になった名護市長選がきのう投開票され、辺野古への移設受け入れに反対する新人の稲嶺進氏が現職を破った▼政府・与党は、普天間飛行場の移設先の決着を先送りし、今年五月までに移設先を検討する考えだが、選挙で示された住民の「意思」を尊重することになるだろう▼多くの国民は、戦後、米軍基地を押しつけてきた沖縄の人たちの「痛み」を見て見ぬふりをしてきた。<懈怠>と非難されても返す言葉はない。