世界初の百貨店は19世紀後半のパリに誕生したボン・マルシェだとされる。気軽に入れる店に、いいモノをたくさん並べ、安く売る。このアイデアは新興の中産階級に支持され、欧州から米国、日本へと「百貨店」は瞬く間に広がった。
▼鹿島茂氏の著書「デパートを発明した夫婦」はボン・マルシェの工夫の数々を紹介する。外国にしかない商品を安定的に仕入れるため納入業者に国内工場を造らせたり、広告を通じ新しい生活を提案したり。通販カタログを発行し米国などにも商品を輸出する。創意工夫で消費者の心をとらえ新市場を開いたのだ。
▼日本の小売業界で強い個性を持つ創業者といえばダイエーの中内功氏。その中内氏も1969年に出版した「わが安売り哲学」の中で「ダイエーのめざすところは消費者のための企業である」と宣言した。食品や衣料の価格決定権はスーパーが握るようになった。これからは家具や電気製品でもと意気軒高だった。
▼いま百貨店もスーパーも苦境に立つ。昨年の売上高は両者とも、20年余り前の水準まで落ち込んだ。地方経済の衰退、専門店の台頭など理由はいろいろあろう。だが「消費者のため」という原点に立ち返れば、それぞれ打つ手はまだあるはず。人々をわくわくさせ、凍った消費意欲を溶かす。そんな挑戦が見たい。