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【社説】

週のはじめに考える アメリカは変わったか

2010年1月25日

 オバマ米政権が二年目に入りました。「変革」の熱狂は冷め、秋には中間選挙を迎える正念場です。新たな国家像を探しあぐねる苦悩がにじみます。

 歴史は繰り返す、といいます。

 人間の営みには時代を超えて反復する一定のパターンがあるのでしょうか。それとも、常に現在からしか物語を紡げない私たちが、過去のイメージを歴史に投影させるだけなのでしょうか。

 「アメリカ社会の統合」を訴え、建国以来の「原罪」とも称される黒人問題を乗り越え、世界の歓呼を浴びてスタートしたオバマ政権でした。

◆揺らぐオバマ政権の威信

 いま、初めての一般教書演説を控え、オバマ政権の威信は大きく揺らいでいます。最大の課題であった世界的金融危機では、当面の危機を乗り切ったものの、高止まりの失業率、景気の二番底への懸念を払拭(ふっしょく)するまでには至っていません。

 内政上の最優先政策だった医療保険改革は、まさに胸突き八丁。上下両院それぞれの法案審議こそ乗り越えましたが、最終案となる統合案では調整が難航、仮にまとまったとしても、国民皆保険という福祉国家の目標は相当程度後退を余儀なくされそうです。

 外交上の最大懸念だったアフガニスタン戦争では、苦渋の末に増派を決定しました。時期尚早との批判を背に受賞したノーベル平和賞授賞式では、「正しい戦争」論を展開し、理想主義から現実路線へと大きく舵(かじ)を切りました。

 政権発足時、オバマ政権の行方をカーター政権、あるいはフランクリン・ルーズベルト政権になぞらえる論議がありました。理念と倫理を掲げながら、イラン革命などを機に幕を閉じた短命型か、大恐慌に対処しつつ第二次大戦を指導した本格型か。

◆民主主義制度の性急さ

 現時点で見る限り、むしろ、クリントン政権発足時との類似性が益々(ますます)顕著になっています。湾岸戦争の遂行で九割を超える支持率を得ながら、経済政策で失速した父親のブッシュ政権を継いで発足したのが一九九三年。医療改革を急ぐあまり失速し、翌年の中間選挙で共和党の復権を許しました。

 両議院で多数を占めた共和党が保守革命の流れを呼び込み、中枢同時テロを境に米国が一極主義に突き進んだのはなお記憶に新しいところです。

 オバマ政権がそもそも訴えた「変革」は、こうした一極主義に行き詰まったブッシュ路線からの脱却でした。敵か味方か、の二者択一から国際協調へ、野放し同然の市場原理主義から機能する政府へ。地球環境問題に関しても、国際協議への復帰を果たしました。

 「イスラムとの対話」「核廃絶をめざす」という大きな演説はその姿勢を象徴するもので、その限りではアメリカの変化を物語るものでした。

 その半面、一年以内に閉鎖する、と宣言しながら実現していないグアンタナモ基地問題が示すように、具体的な成果は依然乏しいままです。いわば、敵失と未曾有の金融危機を背景に政権交代を勝ち得ながら、説得力ある変革の中身はいまだに提示できていないのが実情です。50%程度にまで低下した支持率は、一般国民の実感でしょう。

 エドワード・ケネディ上院議員の死去に伴うマサチューセッツ州補選で民主党候補が敗退したことも大きな痛手です。上院での安定多数を失ったことはもとより、今後も民主党の正統性の一翼を担い得たケネディ家という支柱も失われたからです。

 民主主義制度は性急です。概(おおむ)ね四年に一度の周期で結果を出さねばなりません。米国ではさらにその間に中間選挙の関門があります。その米国を執拗(しつよう)に狙うイスラム過激派は、中世を想起させる時代錯誤的な思想と時間軸をもってテロを仕掛けてきます。

 小刻みではあれ歴史を先へ先へと進めなければすまない米国の生き方に対して、テロ勢力は時代を過去へ過去へと巻き戻そうとします。国際的地位の相対的な低下を見透かすような自爆テロが止(や)まず、国家的安全を脅かされ続けるならば、アメリカは建国理念への回帰の呼び声のもと、再び宗教国家への傾斜を余儀なくされるかもしれません。

◆憎悪の悪循環に戻るのか

 アメリカには市民宗教とも呼ばれる精神的土壌があり、国家的危機に応じて強い統合力を結集してきたことは、歴史が物語っています。

 この秋、オバマ政権に対する中間選挙の審判が下されます。芽生えかけた国際協調の好機を生かせるのか、憎悪の悪循環を招きかねない対立路線に戻るのか。国際社会も厳しく問われています。

 

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