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「標札泥棒」という随筆が作家の立原正秋にある。門柱にかけていたのを受験の季節に盗まれた。しばらくたった朝、新聞を取りに行くと元の所に戻されていて、「おかげさまで合格しました」と書いた紙がポストに入っていたそうだ▼昭和40年代の随筆だが、その昔、表(標)札を盗んで合格を願うまじないがあった。通や透など「とおる」と読む名の表札は要注意だったようだ。いまなら稚気ではすまされまいが、受験生の切実は昔も今も変わらない▼今年もシーズンが到来して、様々な願掛けがにぎわいを見せる。東京の湯島天神を訪ねると祈願の絵馬が鈴なりだ。その数は約5万。「今年こそ受かりますよう 母」は浪人生の母堂だろう。教え子への御利益(ごりやく)を願う先生の絵馬も多い▼隅田川を渡った回向院(えこういん)には、あの鼠(ねずみ)小僧次郎吉の墓がある。どんな屋敷へもするりと入った伝にあやかろうと参拝が絶えない。石粉を持ち帰ってお守りにする習わしで、墓前の「お前立ち」と呼ばれる石はすっかりちびている▼厳しい景気に締めつけられて、今年の大学受験は「安・近・少」なのだという。授業料の安い国公立。自宅から通える近場で、出願は少なく。加えてインフルエンザの心配も抜けきらない▼木から落ちないコアラのふん、蒸気機関車の滑り止めの砂、「勝どき駅」の合格祈願切符……。いつもの八百万(やおよろず)ぶりだが今年の願掛けはいっそう切実かもしれない。〈ポップコーンはじけ合格通知来る〉山崎(崎はやまへんに立つ崎)千枝子。わが30余年前を懐かしみながら、春遠からじとエールを送る。