始まりは「異国の女」から届いた手紙。文通は17年も続き、縁はついに結ばれる。19世紀フランスの文豪、バルザックの晩年の結婚逸話だ。「異国の女」はハンスカ夫人。夫人が館を構え、文豪も行き来した異国とはウクライナである。
▼帝政ロシアの辺境ながら、欧州文化圏にあったウクライナ。ソ連支配からの独立後は、オレンジ革命をへて親欧米路線にかじを切った。自然な流れだったろうが、17日の大統領選では一転、親ロシア派の候補が優勢に。かつて「小麦の王国」と称賛したバルザックも、この国の政治の混乱ぶりに驚いているだろう。
▼ウクライナの変化に、欧米は警戒感を強めている。だが、ひとごとと片付けられないのが今の日本である。きょうは改定した現行の日米安全保障条約の署名から50年だ。日米同盟のきずなを一段と強めるべき時なのに、普天間の移設問題は宙に浮いたまま。海上自衛隊のインド洋での給油活動も停止してしまった。
▼開幕した通常国会は、「政治とカネ」をめぐって、のっけから大荒れの予兆が漂う。鳩山由紀夫首相は手いっぱいかもしれないが、日米同盟の行方を危惧する声が多いこともお忘れなく。国の司令塔たる首相の責務は重い。「汝(なんじ)、君主たるすべを知らぬなら、君主になるべからず」。かのバルザックも説いている。