政府税制調査会が中長期の税制改革を話し合う専門家委員会の設置を決めた。納税者に番号を振り、所得をつかめるようにする納税者番号制度の作業部会も設ける。まず日本経済の活力を高めると同時に、将来の財政の安定も見通せるような、骨太の改革像を示してほしい。
民主党政権が約3カ月でまとめた2010年度税制改正は、時間の制約もあり、体系だった税制の姿を示せなかった。早々に中長期改革の作業を始めたのは評価できる。
新設する専門家委は、社会保障の給付充実に積極的な神野直彦関西学院大教授が委員長に就く。最大15人で構成し、税制や社会保障、環境、財政、地方分権に詳しい学識経験者やエコノミストが入る見通しだ。バランスの取れた人選が重要になる。
日本経済の潜在成長率は1%を割る水準に低迷し、少子高齢化で現役の働き手の数は大きく減っていく。いかに経済を成長させ、財政と社会保障を持続可能にするかの視点が、税制改革で問われる。
財務相兼任となり、政府税調の会長に就いた菅直人副総理は20年度までの平均で「名目3%」の経済成長を目指す政府の成長戦略のまとめ役だ。税制もそれと整合性の取れた改革像を描く必要がある。
民主党は子ども手当や高校無償化など家計向けの給付を充実させて内需を刺激すると説明している。だが、これだけでは強力な経済成長につながらない。経済の活力向上には法人課税の実効税率の引き下げなど、企業部門の生産性や競争力の向上につながる改革も不可欠だ。
専門家委は膨らむ社会保障の費用をまかなう消費税率の引き上げも正面から議論すべきだ。鳩山政権は「4年は引き上げない」という主張を変えない。だが、6月にも示す中期財政フレーム(枠組み)で消費税問題を避けて通るようなら、財政規律への政権の姿勢が疑われる。
菅財務相が納税者番号制度の合意形成に積極的なことは支持できる。個人の納税情報を的確につかむのは、減税と低所得者向け給付を組み合わせる「給付つき税額控除」の導入にも不可欠だ。問題点を詰め、当面のメドである14年度よりも早く導入できるよう努めるべきだ。