HTTP/1.0 200 OK Age: 229 Accept-Ranges: bytes Date: Sun, 17 Jan 2010 23:17:19 GMT Content-Length: 7636 Content-Type: text/html Connection: keep-alive Proxy-Connection: keep-alive Server: Zeus/4.3 Last-Modified: Sun, 17 Jan 2010 14:18:32 GMT NIKKEI NET(日経ネット):社説・春秋−日本経済新聞の社説、1面コラムの春秋

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春秋(1/18)

 小沢一郎氏の地元の岩手県に鞍掛山という小さな山がある。盛岡駅からバスで1時間ほど。標高900メートル足らずの、おだやかな印象の山である。宮沢賢治が残した詩やメモに、この山の名前がしばしば登場する。

▼「たよりになるのは、くらかけつづきの雪ばかり。野原も林も、ぽしゃぽしゃしたり、くすんだりして、少しも当てにならないので……」。詩集「春と修羅」に、こんな心細げな作品がある。このとき賢治は、吹雪の中を歩いていたのだろう。くっきり輪郭を浮かべる山の姿に、確かな力を感じていたに違いない。

▼激しい降雪に位置感覚を失った経験は、北国の人なら誰にでもあるはずだ。周囲の物との距離がつかめず、何を信じて、どちらに進めばよいのか分からなくなる。いまの日本の政界も、同じかもしれない。与党の最高実力者と検察当局、権力と権力が対決する荒れ模様である。風景はゆがみ、人々は足をすくめる。

▼宮沢賢治が好んだ鞍掛山のすぐ隣には、東北の指折りの名山とされる岩手山がある。こちらは2000メートル以上の立派な山だが、なぜか賢治は「古ぼけて黒くえぐるもの」「汚く白くよどむもの」と気に入らない様子だ。巨大すぎる存在は、かすんだ風景の一部となり、人々が頼れる道標にならないからだろうか。吹雪の中で国会が始まる。

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