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春秋(1/17)

 歌人の道浦母都子さんに、阪神大震災の体験を詠んだ連作がある。そのひとつは「たくさんの人が死んだのに……」と詞(ことば)書きを添えた歌だ。「あかねさす生の側にて光り立つ黄の水仙とこのわたくしは」。死はまさに、生の隣にあった。

▼あの日から15年が過ぎた。被災地はすっかり復興し、肉親を亡くした人々の心の傷も少しずつ癒やされてきただろう。しかし実は、死はいまもそこにある。住まいを失った人たちが住む復興住宅では、誰にもみとられずに生を終える「孤独死」がこの10年で630人にものぼっているのだ。震災は終わっていない。

▼昔からのコミュニティーが崩壊し、知る辺なき場での暮らしを余儀なくされた被災者たち。高齢化がいちだんと進んでいるという。この地震国にさまざまな教訓を残した阪神大震災だが、なお絶えることのない孤独死は復興の深い谷間を見せつけている。弱者をことのほか苦しめ、手綱を緩めないのが災害なのだ。

▼「メメント・モリ」なる言葉がある。「死を想(おも)え」というラテン語だ。カリブ海のハイチを襲った大地震の惨状を知り、この警句をかみしめたい「阪神」15年の節目である。たまたま生の側にいる私たちにできることは何だろう。まず死を想ってほしい、死を忘れないでほしいと、死者たちが訴えている気がする。

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