「雲の後ろではいつも太陽が輝いている」。米国の詩人、ロングフェローの言葉だそうだ。意味するところはわかりやすい。つらいときでも希望とチャンスは必ずある、という励ましだ。虐げられ苦闘している人々への応援でもあろう。
▼この格言を題名に借用した英印共同制作の記録映画「雲の後ろの太陽」が新年早々ちょっとした騒ぎを引き起こした。カリフォルニアで開いた国際映画祭が上映を決めたところ、やはり上映を予定していた中国映画の監督が自分の作品を取り下げたのである。「雲の後ろ……」の題材がチベット問題だったためだ。
▼表向きは中国の映画監督が自ら取り下げを決めたことになっているが、背後には中国政府の意思があろう。昨年は豪州の国際映画祭でウイグル問題に関する映画を巡り同じような騒ぎが起きた。ドイツのブックフェアでは、中国の人権活動家の講演を認めないよう中国の高官が主催者側に申し入れる事件があった。
▼経済大国として輝きを増している中国だが、表現の自由にとってはむしろ重く垂れこめる雲である。その経済力が増大すればするほど、雲は広がってきているようにさえみえる。グーグルが中国市場からの撤退も辞さない覚悟で検閲の廃止を中国政府に求め始めた。分厚い雲に風穴が開くきっかけになってほしい。