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天声人語

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2010年1月13日(水)付

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 力士を志す少年に、「一番」という言葉を使って目標を語ってもらうとする。大方は「一番強くなる」だろうが、「一番でも多く勝つ」も悪くない。相撲人生を縦に見るか、横に見るかの違いだろう。横長のそれから、大記録が生まれた▼史上最多、幕内808勝を達成した大関魁皇である。白星数の上位は名横綱ばかり。幕内最年長の37歳まで星を稼げるのは綱の重圧がないせいもあろう。だが、ずっと「二番目に強い」のも並大抵のことではない▼同期のアケボノ(曙の点つき)や若貴兄弟は早々に出世し、最高位を極め、30歳前後で引退している。対する魁皇関は、優勝した次の場所で何度も苦杯をなめた。ケガにも泣いた。波乱彩る土俵歴は、いくつもの頂が連なる岩山を思わせる▼凍(い)てついた蛇口をねじ切り、リンゴを片手でつぶす握力。右上手さえ引けば寄っても投げても横綱級なのに、まわしに手が届かないと視線が泳ぎ、がぜん心細くなる。不利な体勢から力任せの小手投げも多い。素人目にも裏表のない、正直な取り口だ▼新記録をかけた昨日の相手は、54度目の対戦となる千代大海だった。同じ古参大関として踏ん張ってきたが、今場所は関脇に落ち、引退の瀬戸際にある。そんな戦友を、後ろから抱えて豪快に投げた。立ち上がった背に、そっと手を添えた▼気は優しくて力持ち。この人ほど「お相撲さん」と呼びたくなる力士もいない。その優しさがここ一番でもろさに化けようと、ファンは温かい。808勝の喜びは、それに続く528敗137休があってこその味わいである。

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