米航空機テロ未遂事件でイエメンのアルカイダ系武装組織の関与と空港検査のずさんさが判明し、テロ対策の練り直しが必要になっている。同時にイエメンのテロ温床化を防ぐ国際連携も急がれる。
事件は年末のクリスマス当日、米国デトロイトの上空で起きた。男が下着に潜めた爆薬に着火、幸い乗客に取り押さえられて未遂で済んだものの、男が「米国行き旅客機の攻撃を指示された」と供述したから世界が仰天した。八年前の9・11テロの悪夢を思い起こした米国民も多かったはずだ。しかも、男は危険人物との情報が寄せられていながら、搭乗禁止リストから漏れていたのだ。
オバマ米大統領は五日、主要閣僚、中央情報局(CIA)など関係者を集めた緊急会議で、情報不足でなく情報を生かせなかったと連携ミスを指摘した。
特に衝撃だったのは国際テロ組織アルカイダにつながり、イエメンに拠点を置く武装組織「アラビア半島のアルカイダ」が犯行声明で(1)男に爆発物を渡した(2)イエメンでのアルカイダ掃討作戦の報復(3)対米攻撃を続行−と述べ、米国を標的にしたことだ。
イエメンでは政府軍と、貧困層を背景とする反政府勢力との内戦、政情不安が長引き、そこに付け込む形でテロ組織が勢力を拡大している。戦闘員を訓練し出撃拠点化している。「アラビア半島のアルカイダ」も昨年一月、アルカイダの最高指導者ビンラディン容疑者の祖国サウジアラビアから逃げてきたメンバーらが結成した。
事件の直前、イエメン政府は米国支援を受け空爆でアルカイダ関係者六十人以上を殺害していた。
逮捕された男は、ロンドンでアルカイダ関係者と接触後、イエメンで訓練を受け、飛行機に乗ったとみられる。
男が出国した母国ナイジェリアの空港では、爆薬が難なくすり抜け、乗り換えたオランダでは再検査なしと伝えられ、テロ対策の盲点も露呈した。
欧州連合(EU)が衣服の内側を透視できる全身スキャナーの空港への導入を検討するなど各国が対策強化に乗り出している。
米政府内には「イエメンがイラクやアフガニスタンに次ぐ明日の戦場になる」との懸念が一挙に高まっている。今月二十八日にはイエメンの旧宗主国である英国で国際会議が開かれる。テロの温床化を防ぐ貧困対策のほか、空港やテロ情報の交換など早急で国際的な連携がまず必要である。
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