「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換で、新年度全国のダム事業百三十六のうち八十九が再検証される。掛け声だけに終わった過去の轍(てつ)を踏まず、今度こそ抜本的見直しを求める。
八十九のうち三十一は国、水資源機構が施工、五十八は国の補助で道府県が行う補助ダムだ。
国と機構の事業では、政権交代前後から論議の的になった八ッ場ダム(群馬県)、設楽ダム(愛知県)、木曽川水系連絡導水路(岐阜県)などが含まれたのは予想通りだ。
補助ダムも、前原誠司国土交通相は中身の見直しを知事に要請した。新年度予算案では、補助事業への補助も国が優先順位を判断すると、強い姿勢を見せた。
ダムは洪水調節の治水と発電を含む利水が目的だが、水需要の先細りで、既設ダムも貯水容量を治水重点に移す動きが目立つ。
河川の治水対策には、川の断面積を大きくする河道掘削、堤防のかさ上げなど強化、放水路や遊水地整備、水源地域の森林保全の手法もある。最近はダムが土砂の流れを止め、河口付近の海岸を浸食させたり、異常な局地集中豪雨時の放水で下流に危険を招くと心配されている。
ダムの必要性や費用対効果は、国直轄も補助事業も流域の具体的条件から判断すべきは当然だ。だが「見直し」「再検証」というと判で押したように反発したり、計画の正当性を一方的に主張する自治体の首長らが多い。
真に必要で費用対効果も大きい事業なら、十分再検証に耐えられるはずだ。ダム事業は計画から施工まで期間が長いだけに、財政事情や社会的条件の変化に応じ、節目での見直しは当然である。
中心は昨年末、初会合を開いた「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」だが、九人の委員はダム推進派が目立つと批判が強い上、会議は非公開だ。行政刷新会議の「事業仕分け」同様に議論の経過を全面公開してこそ、検証の公正さが納得されよう。
有識者会議は今夏に中間取りまとめを公表、それを基に各地で個別ダムの具体的な検討にかかる。有識者会議が基準を示し、流域の関係者の意見を求めると予想される。事業者が出さなかったデータを含め資料をすべて開示し、行政や特定の立場の学者のみならず、隠れていた住民の声も広く聴き、事業の行方を決めるべきであろう。
この記事を印刷する