「どこまで行くの」と聞かれて20歳のジュンは答える。「行けるところまで行くんだ」。横浜からナホトカへ向かう船の中である。五木寛之さんの「青年は荒野をめざす」は、こんな主人公の果てしない冒険を描いて若者を旅に誘(いざな)った。
▼「これはもうぐずぐすしてはいられない」と書き出して、ほとばしる漂泊の思いをつづったのは沢木耕太郎さんの「深夜特急」だ。インドから欧州までの乗り合いバスの旅。さあ行こう、と奮い立つ「私」はやはり心に誓う。「行けるところまで行ってみよう」。とにかく何かを見たいという情動がそこにはある。
▼時代が変わっても青年にはそういう精神が宿っているはずだ。ニッポンが停滞したこの20年に生まれ育った今年の新成人にも、面白い若者がいたるところにいる。農業や介護に道を見いだしたりボランティアに汗を流したり。やれ草食系だ縮み志向だと決めつけるのは人を型にはめて安心したがる古い世代だろう。
▼とはいえ、先の見えない世の中だ。内田樹さんが話題の「日本辺境論」で説く「ふらふら、きょろきょろする日本人」がまた増えもしよう。旅立つ勇気を持つのは並大抵ではない。しかし、だからこそ、行けるところまで。若さはあなたの背中を押すに違いないと、これもシニアの勝手なつぶやきではあるけれど。