三大銀行グループの増資が「2周目」に入った。昨年12月の三菱UFJに続き、三井住友も約8900億円の資本調達を発表した。2008年秋のリーマン・ショック後の、大手銀の増資総額は3兆7000億円と巨額で、09年夏に続くみずほの2度目の増資観測も浮上している。
銀行システムが不安定なままでは、経済の成長も難しい。十分な資本調達はマクロ経済の観点から重要だが、持ち合い株式の圧縮など、銀行の構造改革も欠かせない。
巨額の増資の背景には、自己資本比率に関する新たな国際的規制の導入がある。バーゼル銀行監督委員会が昨年12月に案を公表した。それによると、機動的に配当を減らせる普通株と、利益の蓄積である内部留保が「狭義の中核自己資本」とされ、銀行監督の上で重視される。
バーゼル委は金融関係者から、規制案への意見を募る。それをもとに融資などのリスク資産に対する狭義の中核資本の割合などを、今年末までに決める。新規制の実施は12年末をメドとするが、金融システムや経済への悪影響を避けるため、長期の移行期間を設ける方針だ。完全移行には10年かかる可能性もある。
それにもかかわらず、大手銀が増資を急ぐのは、規制案の中身が厳しいからだ。例えば他の金融機関への出資が、中核的な自己資本から完全に控除されかねない。外資との資本提携は進めにくくなる。
世界的な金融危機の火種はまだ残る。米欧の一部金融機関は時価評価をしない証券化商品を抱えている。そうした銀行が損失に備えて増資に走り、株式市場に影響を及ぼす前に日本の銀行が増資を急ぐ構図だ。
日本の銀行は国内の融資の利ざやが薄く、利益の蓄積に乏しい。資本対策だけでなく、低収益構造から脱する改革も急ぐべきだ。グループ企業の統廃合や、新興国での事業拡大など、株主からの要求は多い。
株式相場の変動に、自己資本比率が左右される財務体質も変えるべきだ。09年9月末時点で上場銀行が保有する株式の時価は中核資本の35%に相当する額という。株式相場が下がれば評価損が発生し、資本対策の効果は弱まる。増資を機に、持ち合い株を一気に圧縮すべきだ。
東京証券取引所は、既存株主に新株を割り当てやすくする制度を導入した。公募増資に比べ、既存株主の資本の持ち分が減らない利点があり、今後の増資では活用できる。しかし、銀行が変わる姿勢を見せなければ、株主は割り当てを拒み、自力の資本政策も頓挫しかねない。