「一なれば治(おさ)まり、二なれば乱(みだ)る」。これは次世代スパコンの開発予算をめぐり「世界一を目指す理由は? 二位ではダメなんですか」と、仕分け人の蓮舫参院議員に突っ込まれた官僚の反論、ではもちろんない▼では、野球のWBCで日本代表を世界一に導いた原監督が決勝戦の後、ほっとして語ったひと言、かというとそうでもない。中国戦国時代の思想家、荀子(じゅんし)の言葉である(『荀子』致士篇)▼鳩山内閣の重鎮、藤井財務相辞任のニュースに接して、ふと思いだした次第。というのも、体調不良は表向き、本当の辞任理由は、政府の仕事にあれこれ強引に容喙(ようかい)してくる小沢民主党幹事長の存在に嫌気が差したのではないか、との観測もあるからである▼確かに、首相のほかにもう一つ、小沢氏という権力の中心がある印象は否めない。「一なれば治まる」かは別にして、いわゆる「権力の二重構造」が閣僚の辞任劇を招いたとすれば、まさに荀子の懸念する「二なれば乱る」のケースであろう▼その小沢氏、自身の資金管理団体の土地購入にからむ政治資金収支報告書虚偽記載問題で、検察の任意聴取に応じるようだ。既に一つ、首相の方には例の個人献金偽装問題がある。政治とカネの問題も、「一」ではなく「二」…▼「一なれば治まる」という話でもないが、あるいは、疑惑も「二なれば乱る」展開となるのか。