昨年の交通事故死者が57年ぶりに5000人を下回った。そう伝える記事を読みながらテレビで箱根駅伝を見ていたら、大詰め、9区から10区への中継所の頭上にある歩道橋が目に入った。横浜市鶴見区の第1京浜(国道15号)である。
▼かつて、歩道橋が交通戦争に対する切り札だと目された時代もあったのだ、と思い起こす。一方で、車をスムーズに通すため人が回り道をするのは発想が逆だ、と批判もされ、いつしかすぐそばに信号がついて横断歩道ができた。そうなれば、わざわざ階段を上り下りして橋を渡る人がいなくなるのも道理である。
▼車の安全性が高まり、シートベルトを締める人が増えた。酔っ払いなどの取り締まりや罰則も強化された。死者が減った主な理由は、そう説明されている。最悪だった1970年に比べ車の数は5倍近くに増えたのに、死者は29%になった。対策に終わりがあるはずもないが、効果があがっている証しではあろう。
▼信号と横断歩道のわきの少しくたびれた人けのない歩道橋を、都会で、地方で、どれほど見てきたか。「戦争」さなかの68年にかけられた鶴見中継所の歩道橋も、記憶の中の光景と一緒だ。こうした歩道橋は、造られた目的を幾ばくかは果たしたことだろう。しかし、今はむしろ、戦争の奇妙な遺跡のようである。