米英両国がアラビア半島の南西にある中東イエメンの大使館を一時閉鎖し、日本も領事業務を停止した。首都サヌアで国際テロ組織アルカイダによるテロ攻撃の恐れがあるという。テロ組織が拠点を置くイエメン情勢は、きな臭さを増している。
イエメンが国際社会の注目を集めたきっかけは、昨年12月25日に米デトロイト上空で起きたデルタ航空機爆破テロ未遂事件だ。ナイジェリア国籍の容疑者は、イエメンでアルカイダ関係者から犯行を指示され、爆発物を受け取ったと供述した。
さらに、イエメンに拠点を置くアルカイダ系の武装組織「アラビア半島のアルカイダ」がテロ未遂事件の犯行声明を出し、今後も米国への攻撃を続けると警告した。オバマ大統領もこの武装勢力が事件に関与したと断定した。
「アラビア半島のアルカイダ」は昨年初め、隣国のサウジアラビアなどから逃れた武装勢力を中心に結成された。イエメン国内で勢力を伸ばしており、今回の事件の容疑者もここで訓練を受けたという。
米英両国はイエメン政府への軍事・資金協力を強化し、アルカイダ掃討作戦を支援する方針を示した。ブラウン英首相は今月末にロンドンでアフガニスタン国際会議を開く際、イエメン情勢に関する国際会議を主催する計画も表明した。
事件は、アルカイダの拠点がアフガニスタンだけでなく、イエメンのような国にも広がっている現実を示す。テロ撲滅には組織の掃討や貧困対策が重要だが、容疑者は富裕層出身で、英国の大学で工学を学んだ若者だ。国際社会は連携し、テロの芽を摘む知恵を絞る必要があろう。
容疑者が機内に持ち込んだ爆発物は航空機を爆破するのに十分な量だったとされる。米同時多発テロの悪夢が再現される寸前だったことを考えれば、ぞっとする話だ。米国を標的にしたテロはしばらく影を潜めていただけに、米政府関係者の慢心はなかったのか。
米国では空港の警備体制や乗客検査の強化に加え、ビザ審査の厳格化の検討も始めたという。テロの未然防止のため、ある程度の安全強化はやむを得ないが、自由な経済活動との兼ね合いも考慮すべきだろう。