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【社説】

年のはじめに考える 変わる高校・大学入試

2010年1月3日

 入試の季節が近づきました。公立高校では推薦枠を見直して学力重視の傾向に、大学入試でも改革の動きがあります。入試制度は様変わりしそうです。

 昨年十月に開かれた東京都教育委員会で、都立高校入試の推薦枠が議論の的になりました。一部の委員から「枠が広がりすぎている」と批判が上がったのです。

 都立高校の推薦入試は職業科でスタートし、二〇〇九年度は普通科を含むすべての学科で行われ、全百七十三校のうち、約97%の百六十七校で実施されました。

 選考は調査書(内申書)のほかに面接や小論文などで受験者を評価しており、学力試験は課されていません。

◆4分の1が推薦入試枠

 推薦入試は学校の特色にふさわしい生徒を選んだり、学力偏重になりがちな入試を多様化させるといった狙いがあります。

 推薦枠の人数は上限の範囲内で各校が決めますが、一〇年度は都立校の募集人員四万一千七百八十六人のうち、一万一千七十七人にのぼります。批判は「入試で四人に一人が学力試験を受けないのはおかしい」という指摘です。

 推薦入試は主に一月下旬に行われ、推薦された生徒はそこで不合格でも一般入試を受けられる機会不平等の問題もあります。

 新型インフルエンザが流行し、自治体が高校入試で追試験を実施するかどうかで悩んでいます。追試にも受験機会や出題水準の「公平性」という問題が存在します。

 推薦入試の見直し論には内申書への不信もあるようです。推薦入試で合格するか否か、それ以前に推薦してもらえるかは内申書が大きな比重を占めます。教師によって内容がばらついたり、恣意(しい)的に作成されることがあってはなりません。しかし、その実態は中学校側にしか分からないことです。

◆入試は公平であるべき

 入試は公平、公正な制度であるべきです。推薦枠の拡大が公平性を損ねているとしたら、改善しなければなりません。ただ、入試制度の急な変更は生徒への影響が大きく、拙速は避けるべきです。

 都教委は今春からの変更を見送りましたが、来春から推薦枠を減らす方向で臨むようです。

 大阪府はすでに推薦入試をしていません。埼玉県は学力検査のない入試を一〇年度から廃止し、千葉県は一一年度から二回ある試験の両方で五教科の学力検査を行います。学力試験を重視しだした自治体をみると、私立高校が多い都府県のように見受けられます。

 大学では推薦入試と学力の関係が深刻な問題になっています。国公私立大の全入学者のうち、推薦入試やアドミッション・オフィス(AO)入試での学生が四割を占めています。AO入試は面接や小論文などを通じて志願者を評価しようという方法です。一九九〇年代から各大学に広がりました。

 ところが、この方式の入学者に基礎学力の不足が指摘され、見直す動きが出ています。国公立ではAO受験であってもセンター試験を課したり、AO入試自体を廃止する大学も出てきています。

 文部科学省は学力不足の学生を増やさないためにも「高校・大学接続テスト」(仮称)導入を検討しています。高校段階の学習達成度を測定し、推薦入試やAO入試にも活用する狙いがあります。ただ、大学入試センター試験との関係など、導入までには多くの問題が残されています。

 私立大学にはAO入試や推薦入試を簡単にやめられない事情があります。少子化が進み、大学の募集定員と志望者が同数の「全入」時代となり、本年度は四年制私立大の四割以上で定員割れです。経営の厳しい私学では推薦やAO制度をうまく利用すれば、定員確保ができるからです。

 有名私大には付属や系列の中学校を設ける動きが活発です。子供は大学までの進路が保証され、学校は一定の人数を早めに確保できます。“囲い込み”とも言え、私学の必死さがうかがえます。

 神奈川県教委では昨年十月、公立高校全日制の定員増を求めた教育委員一人が辞任しました。全日制の定員比率が低く、定時制を選択せざるを得ない生徒が多いとの主張は通りませんでした。全日制が増えれば定時制や私学が影響を受けるのは間違いありません。

 今後、公私を問わず、学校の存続競争が激しくなるでしょう。大学だけでなく、高校も淘汰(とうた)の時代に入ったとみるべきです。

◆教育内容も再考の時期

 高校でも推薦入試は学力不足の抜け道となってはいないでしょうか。日本は人材育成が何より重要です。制度が学力不足を招いている要因の一つだとしたら、見直さなくてはなりません。入試議論にとどまらず、高校と大学は教育内容も再考する時期に来ています。

 

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