地球儀を眺めてみる。日本は小さな島国だ。巨大なユーラシア大陸が覆いかぶさり、左斜め上から朝鮮半島が突き出る。広い太平洋のかなたに北米大陸がある。
島国日本は、世界から孤立しては生きられない。地球儀をみれば明らかだが、心配が尽きない。
日米で「成長中国」導く
2010年は、日米安全保障条約改定から50年である。鳩山政権下の日米関係には暗雲が漂う。日韓併合100年にもあたる。前世紀の歴史のなかの事実は、今年の日韓関係に影を落とす。日米、日韓間の不協和音は、核で周辺に不安をまき散らす北朝鮮の抑止を難しくする。
地球儀をゆっくり回しながら考える。いま世界は、どんな力学で動いているのだろう。約3週間前、コペンハーゲンで開いた第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、現在の世界システムの断面を見せつけた。
1国1票の仕組みのもとでは合意をつくるのが難しい現実である。特に途上国の代表を自任する中国が事実上の拒否権を持った。問題が何であれ、日本が中国を説得しようとすれば、米国との協力が欠かせない。が、鳩山由紀夫首相は、オバマ大統領との会談さえ、できなかった。
首相は、デンマーク女王主催の夕食会で隣り合わせたクリントン国務長官と言葉を交わすしかなかった。そこでの会話に関して首相が記者団に語った内容に対し、ワシントンに帰ったクリントン長官は、国務省に藤崎一郎駐米大使を呼ぶ形で、抗議の意思を示した。
日米関係は「対等」でも「緊密」でもなくなってしまった。普天間基地の移設をめぐる首相の言動が原因である。警鐘が乱打されたが、首相には聞こえなかった。
国際通貨基金(IMF)の見通しによると、中国の名目国内総生産(GDP)が今年には日本を抜いて世界第2位になる。日本にとって複雑だが、特に経済面では日中の相互依存の深まりは双方に利益となる。
歴史を見ると、急激に台頭する国は対外摩擦を起こす。20世紀の2回の世界大戦の原因もそれだった。成長する中国は、いま軍拡、環境、人権などで摩擦がある。中国を国際社会に調和させる作業は、21世紀の地球社会の安定に不可欠である。日本にとって未来への責任でもある。
米国と距離を置き、中国に接近する鳩山外交は、中国をそこに導くのに有効だろうか。少なくともコペンハーゲンでは違った。
鳩山外交の問題点のうち、2点を指摘する。第一に、安全保障と日米関係を軽視する傾向である。首相周辺は、対米貿易が日本の貿易額の13%であり、中国を含むアジアとの貿易が約50%を占めると強調する。
それは経済の論理としても、正しくはない。日本の対中貿易には、米国が中国に投資した企業とのそれも含まれるうえ、中国で生産した製品の多くは米国向けに輸出される。
第二に、内政の視点から外交を見てきた野党時代に培われた「反・親米」感情の危うさである。自民党政権による対米政策の否定であり、正確には冷戦時代の「反米」とは違うが、実質的には大差ない。
人民日報が日米関係の悪化を伝えた。中国もそれが気になるからだろう。日本が今の反動で次は右に振れるのを恐れる、との解説も聞く。中国の拡大を恐れる東南アジア諸国も日米関係を心配する。
内政が外交を縮める愚
年間100億円以下で済むインド洋での給油の代わりに、アフガニスタンに対し、5年間に毎年900億円の支援をする小切手外交も、内政上の思惑が外交をゆがめた例だ。
他の途上国への無償資金協力の財政的余裕はなくなる。国際社会での日本の存在は縮むから、実は内向き・縮み志向のばらまきである。
鳩山政権の対米姿勢に拍手する気分が日本国内にはある。不況がもたらす屈折感の影響だろうか。
米国際教育研究所によると、08年現在の米国への留学生数は過去最多であり、上位5カ国はインド、中国、韓国、カナダ、日本の順。前年に比べた増加率は、中国の21.1%を筆頭に、インド9.2%、韓国8.6%、カナダ2.2%なのに対し、日本はマイナス13.9%である。
日本が米国よりもアジアに向かう時、アジアは米国に向かう皮肉である。このすれ違いにこそ、日本の孤立への心配がひそむ。
鳩山政権による日米同盟の空洞化は、1921年の日英同盟廃棄に始まり、敗戦に至る25年の歴史を連想させる。11月に予定される日米同盟の再確認を転機にしたい。20世紀の歴史をかみしめながら、地球儀を眺めてみよう。