「天下の険」とうたわれた急勾配(こうばい)の山道。苦しさに顔をゆがめ、息を切らしながら、若武者たちが駆け上っていく。正月恒例の「箱根駅伝」の往路で、きのう二年連続の優勝を果たしたのは東洋大だった▼話題を独占したのは、標高差が八百メートル以上ある山登りの5区で、4分26秒の差をひっくり返した同大二年の柏原竜二選手の走りっぷり。ぱんぱんに張った太ももは、昨年より一回りも大きく見えた▼「去年の自分には負けたくない」と、昨年、自身が出した区間記録を10秒も短縮した。二年続けて往路を制する原動力になった新「山の神」にふさわしい激走だった▼柏原選手は高校時代、主要な全国大会の出場経験も少なく無名の存在だった。好記録が出始め、陸上競技が楽しいと思えるようになった時「自分が変わった」と、きのうのインタビューで語っていた。壁を破る瞬間を知った若者は、大学で才能を開花させた▼一人が沈んでも次のランナーが遅れを取り戻す。人から人へとたすきをつなぐ駅伝は、どこか日本人の心に触れるのだろうか。めまぐるしく変わる順位に一喜一憂しながらテレビの前で、声援を送った人も多かったのではないだろうか▼東洋大は一昨年十二月、陸上部の部員が強制わいせつの現行犯で逮捕され、当時の監督らが引責辞任した。試練を乗り越えた選手たちの強さは、本物に違いない。