虎の勇猛な姿はよく知っているつもりでも、いざペンをとって絵を描いてみると、どこか猫っぽくなってしまう。瞳がつぶらすぎるのか、口元がかわいすぎるのか。届いた年賀状の作品を見比べて、思わずニヤリとした方もいるだろう。
▼でも、笑ってはいけない。虎を虎らしく描くのはプロでも難しい。江戸中期の名絵師、円山応挙も苦心した。香川県の金刀比羅宮が所蔵する「遊虎図」の8頭は、圧倒的な色彩と大きさで見る者に迫るが、しぐさと表情は微妙に「猫」である。この時代の画家の手による虎の絵は、どれも人なつっこくて愛らしい。
▼それもそのはず。日本には本物の虎がいなかったからだ。江戸初期に南蛮貿易が途絶えると、東南アジアから輸入して見せ物小屋に出ていた虎も姿を消した。写実主義を信条とする画家たちは、見たことがない猛獣を想像力で描かなければならなかった。仕方がないので、虎の毛皮と飼い猫をモデルにしたらしい。
▼そもそも虎はネコ科の動物。あやふやな印象や知識に頼ると、虎は簡単に猫に化ける。重要文化財の名画にも年賀状の素朴な絵にも、柔らかくて頼りなげな猫の面影が混ざり込む。さて寅(とら)年の2010年はどうだろう。日本経済を虎のように力強くする道を描くには、まず現実を正確に観察することから始めたい。