まずは遊びぞめを。1950年元日、「若返りの妙薬」のお年玉が政府から出たとの記事が小紙に載った。なんのこと? ピンとこられたかどうか。じつは、年齢の言い表し方を「数え」から「満」に改める法律が施行されたのである。
▼生まれて1歳、あとは新年に齢(よわい)を積んでいく数えに比べ、満だといつも1つか2つ少ない。なるほど若返るが、除夜の鐘を聞きながら「年ひとつ老いゆく宵の化粧かな」(高井几董(きとう))と詠んだ思いからは遠くなる。コラムニスト山本夏彦は、満で数えるという余計なことを始めて正月は旗色が悪くなったと嘆じた。
▼60年たって干支(えと)が庚寅(こういん)から庚寅に一回りしてみれば、当たり前になった満年齢にはもう若返りの霊験はない。政権交代なった鳩山内閣に別のお年玉をねだろうにも、国の懐具合が気になる。それでも、正月はやはり正月である。きょうは折しも満月。厳しい寒気の中、晴れた地では未明に部分月食も拝めたはずだ。
▼初日の出前の天空からのお年玉に力を授かった人もいるだろう。のんべんだらりと続く日々を想像すれば、ありがたさが分かる。「一塊の光線(ひかり)となりて働けり」(篠原鳳作)。そんな厳しさにあこがれつつ、ふっと息もつきたい。そして2010年に歩き出す。正月という妙薬は、その「ふっと」を与えてくれる。