年の瀬に、持てる限りの荷物を抱えた人たちが宿泊施設に並んでいた。失業して住まいを失った人に、寝る場所や食事を提供する東京都の“公設派遣村”だ▼雇用保険が切れ路上生活をしていた人、派遣切りに遭いネットカフェを転々とした人、退職金が出るまでのつなぎ資金がなくカプセルホテルに泊まっていた人…。入所者はきのうまでに六百人を超え、昨年の「年越し派遣村」の入村者を上回った▼四畳半ほどの個室にはベッドと机。弁当の支給や共用の風呂もあるが、年明けの四日までの仮住まいにすぎない。四十代の男性は「一年半前までは普通のサラリーマンだったのに」とつぶやく▼一月から十一月までの自殺者は三万人を超えた。十二年連続だ。昨年の同期間より四百人以上多い。経済状況と密接に関連し、中高年の男性の自殺者が占める割合が高いのが日本の特徴といわれる▼人身事故で電車が止まっているという放送を耳にする機会が、日常茶飯事のようになった。「またか」と思うぐらい鈍感になっている自分にはっとする。死に慣れるのは戦争や大災害の時であるのに▼今年の小欄はきょうで最後です。いつ、だれが生活困窮者になるのか分からない不安定な時代になりました。来年は、もっと生命が尊重される世の中になるように。そう念じつつ、筆を置きます。どうぞ良いお年をお迎えください。