中島みゆきさんに「百九番目の除夜の鐘」という歌がある。108と決まった煩悩の数を超えて鐘の音が響き渡ったらどうなることか。明日はやってこない、悲しみはいつまでも止(や)みはしない。そんな情景を綴(つづ)ったみゆき節が胸をつく。
▼今年はもしかすると本当に除夜の鐘が108では済まないのでは、と心配になる大みそかだ。政権交代はしたけれど内にも外にも難問を山と積んだままの越年である。その不安は人の心に深く沈んで夢がまたしぼむ。なにも新政権のせいばかりではない。バブルがはじけた後、煩悩がいかに増え続けたことだろう。
▼ここはなんとか除夜に間に合わせようと苦心したに違いない。きのう、成長戦略の基本方針というものが出た。環境や医療・介護・健康といった分野に重点を置き、新たな雇用をうんと生み出すという。意気込みは分かるが絵に描いた餅(もち)では困る。大急ぎで形にしてほしい。109番目の鐘の音が待っているのだ。
▼東京証券取引所の大納会で鳴った鐘には希望を託してもいい。打(だ)鐘(しょう)のセレモニーに招かれたのはプロゴルファーの石川遼選手だ。史上最年少で賞金王に輝いた遼君が育った時代は右肩上がりとは無縁だった。それでもこんな若者がニッポンにいる。重苦しく、かすかに明るい音色を交えて2009年が暮れていく。