人間の背丈の2倍もあろうかという石造りの門柱に、大きな漢字が刻まれている。左の柱は「経済門」、右は「道徳門」とある。二宮尊徳の教えを伝える静岡県掛川市の大日本報徳社は、訪れる人たちを自然と改まった気持ちにさせる。
▼2つの門柱は高さも形も同じ。「経済」と「道徳」は、どちらも大事というわけだ。経済なき道徳は労多くして功なし、道徳なき経済は永遠の道おぼつかなし――。こう語り継がれている尊徳の思想を表している。彼が経済感覚も重視したのは農村の復興に力を注ぎ、お金の大切さが身にしみていたからだろうか。
▼尊徳が没して150年余り。倫理や徳と同じように「経済」は重んじられているだろうか。鳩山由紀夫首相は自らの信条の「友愛」をしばしば唱える。一方、国の台所は借金頼みで火の車。来年度の政府予算案には、そんなに家庭にお金を配って大丈夫かと心配もしてしまう。「経済」がかすんで見えてならない。
▼お金の管理も尊徳はしっかり指導していたようだ。教えを受けた人たちが地域ごとにつくった組織では、出し合ったお金を誰にいくら融通したかや、収支の記録をきちんとつけていた。鳩山首相は資金管理団体のずさんな会計処理を露呈した。二宮尊徳なら「経済」の基本がなっていないとあきれるばかりだろう。