地球温暖化への対応で世界は石油消費の抑制を迫られ、この進展次第で石油市場の環境は大きく変わる。主要な産油国は当面の需給や価格だけでなく、中長期の市場の環境変化を意識して動き始めている。
特に注目すべきは、産油国が自ら資源の付加価値を高めて輸出する石油化学事業の急拡大だ。消費国や石油を原料としてきた企業も、産油国の戦略の変化に備える必要がある。
昨年7月の1バレル147ドルの最高値から一時30ドル台まで急落した原油相場は、最近70ドル台で推移している。世界の石油需要は昨年から2年連続で減り、在庫も多い。原油価格がここまで持ち直したのは株価の回復やドル相場の下落に先物相場が連動したからで、需要はなお弱い。
来年は世界の石油需要が増加に転じる見通しだが、産油国には慎重な見方が少なくない。サウジアラビアのヌアイミ石油相は、中国などの需要が増えても先進国の需要が増えるとは思わないと語っている。
1995〜2007年の間に世界の石油需要は年平均1.8%増え、将来の需給逼迫(ひっぱく)が懸念された。ところが最近は、世界景気が回復しても需要の増加率は金融危機前を大幅に下回るとの予測が出始め、中期的には石油需要が減り始めるとの見方まで登場している。
消費抑制の動きに産油国も敏感になった。ベネズエラやイランのように高い価格を期待する国もあるが、サウジ国営石油会社幹部は「われわれの望みは長期安定需要。100ドル超えの再来は望まない」と語る。
中東産油国は確実な需要が見込める中国やインド向けの原油供給量を増やす一方、石油化学への川下展開を急ぐ。サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールなどで工場の新増設が続き、中東諸国の石油化学製品の生産能力は13年までに07年の2倍以上に拡大する見通しだ。
生産コストの安い中東産の石油化学製品の主要な販売先はアジア市場であり、日本の業界への影響も大きい。すでにサウジで合弁事業を開始した住友化学などに続く生産拠点の移転や、より付加価値の高い製品への生産集中を迫られる。こうした川下の産業への影響も含め、石油市場の環境変化から目が離せない。