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米機テロ未遂―悪夢の再現を防ぐには

 実際に爆発していたら、と思うとぞっとする。

 米国デトロイトの上空で、米航空会社の旅客機を爆破しようとした男が機内で捕まった。イエメンに本拠をおく「アラビア半島のアルカイダ」と名乗る組織が、犯行への関与を認める声明を出した。

 9・11同時多発テロから8年、米国内では大規模テロは起きていなかった。国際テロ組織アルカイダが今回の事件にどう関与していたのかははっきりしないが、あの悪夢を思い浮かべた人は少なくなかったろう。

 米メディアによると、容疑者はナイジェリア国籍の若者で、イエメンで最新の高性能爆発物を受け取り、下着に仕込んで米機に搭乗したが、起爆に失敗した。米国の人口密集地の上空で米機を爆破するよう指示された、と米国の捜査当局に供述しているという。

 犯行声明は、米国がイエメン政府と進めているアルカイダ掃討作戦への「報復」だと主張し、米国民へのさらなる攻撃も予告している。

 旅客機を破壊できるような爆発物が、空港の検査をすり抜けて機内に持ち込まれていたことは衝撃だ。それが組織的なテロの一環だったとなれば、事態は一段と深刻になる。従来の安全対策を総点検し、どこに問題があったのかを調べ、穴をふさがなくてはならない。

 休暇中だったオバマ米大統領は声明を出し、「あらゆる手段を使って、米国を脅かす暴力的過激主義の粉砕、解体、壊滅を目指す」と述べた。

 憤りは当然だし、標的にされている米国民の不安は想像にあまりある。だが、過剰反応は相手の思うつぼではないか。恐怖心をあおって社会不安を起こすことがテロリストの狙いである。

 テロと報復の連鎖に陥らないよう、冷静に対応すべきだ。軍事力を過信したブッシュ前政権の「対テロ戦争」の過ちを繰り返してはならない。

 徹底的な捜査と、空港の安全対策などの見直しが先決である。テロに関する国際的な情報交換や当局間の連携も大切だ。

 容疑者の父親は、過激主義に染まった息子の行動を心配して、事件前からナイジェリアの米大使館に相談していたという。人権に配慮しつつも、こうした情報の生かし方を改めて考える必要があるだろう。

 「アラビア半島のアルカイダ」は、隣国サウジアラビアなどから逃れた過激派たちが結成したと見られている。内戦が続くイエメンのように、政府による統治が十分機能しない地域が「テロリストの聖域」になっていく。

 過激主義を生む土壌をなくすのは容易なことではない。テロにつながる小さな動きにも、国際社会が目を光らせていかなくてはならない。

自殺3万人―遺族にもっと支えの手を

 3万人といえば東京マラソンで銀座通りを埋めるランナーの数にほぼ相当する。今年も11月末時点で全国の自殺者がそれを超えた。12年連続である。

 この年末も自ら死を選ぶ人が増えないか、心配だ。政府は年度末にかけて100日プランで対策を強化するという。策を尽くしてもらいたい。

 同時に見逃してほしくないことがある。自殺者が増えれば遺族も増えることだ。自殺対策のNPOライフリンクなどの推計では、過去40年間に配偶者やきょうだい、父母、子どもが自殺した経験のある人は約300万人いる。

 肉親が突然死ぬ、という体験はどんな場合にも耐え難いことだ。まして自殺は、事故や病気による死と違うかたちで家族の心に深い傷を残す。本当は違うのに、なぜ止められなかったかと自分を責めたり、周りからも責められたりしがちだ。

 背景に病気や借金などがある場合、社会的な支援があれば救われた事例も多いだろう。ところが多くの場合は個人の弱さの問題にされてしまう。それをさらに遺族が引きずっていく。

 遺児の支援をしている、あしなが育英会の自殺遺児の文集は「自殺って言えなかった。」と題されている。筆者の若者のひとりは「家でも外でも、死んだお父さんのことは全く話題にしなくなった。最初からいなかったようになった」と話す。友達にも悩みを打ち明けようがない。ライフリンクの自殺遺族聞き取り調査によると、4人に1人は「死にたい」と答えている。

 1990年代にようやく遺族が苦しみを分かち合う活動が広がった。「自分だけではなかった」と知り、心を落ち着ける人が少しずつ増えてきた。

 とはいえ、まだ全国で約80の組織があるだけだ。参加者は数千人にすぎないだろう。遺族が集まる場所や、安心して話し合える雰囲気をつくれるリーダーが求められている。自治体にも手助けしてほしい。

 現実的な支援が必要なことも忘れてはいけない。この十数年、全体の数を高どまりさせているのは中高年男性の自殺者の増加だ。その結果、中高生の子どもを抱える母子家庭が多く残された。あしなが育英会によると、奨学金を受給している母子家庭の平均年収は134万円にすぎない。

 「アパートで自殺し、遺族がその後の家賃を負担させられ続けた」「相続放棄の方法を知らずに借金を引き継いでしまった」。そんな遺族も多い。弁護士などに相談できる機会があれば、避けられたのではないか。

 東京都は今年から、遺体の検査の際、相談窓口や遺族会の案内などの一覧表を遺族に渡し始めた。政府も自治体も、自殺防止の対策だけでは不十分だ。残された家族への温かい配慮も忘れてはなるまい。

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