中国と台湾は自由貿易協定(FTA)に相当する経済協力枠組み協定(ECFA)の締結を目指すことで合意した。来年前半にも署名する見通しだ。アジアの自由貿易圏が一段と広がるなかで、日本のFTA戦略が問われている。
台湾の対中窓口である海峡交流基金会の江丙坤理事長と、中国側の海峡両岸関係協会の陳雲林会長が22日、台湾中部の台中市で会談し、枠組み協定の交渉開始で一致した。
台湾の馬英九総統は「中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)のFTAが来年1月1日に発効すると台湾の製品が大陸市場で競争力を失いかねない」と中台枠組み協定の必要性を強調している。台湾の輸出の4割が中国向けだけに、やむにやまれぬ選択だとの説明である。
ASEANや日本などとの自由貿易協定につなげる思惑もある。2001年以降、中国と前後して世界貿易機関(WTO)に加盟し、様々な自由貿易協定を模索してきたが、中国と外交関係のある相手国からは前向きの反応を得られなかった。
中台枠組み協定が成立すれば台湾にとり初めてのアジアの国との自由貿易協定で、突破口になる。フィリピンは既に台湾に近接する地域の中台枠組み協定参加に意欲を示している。FTA戦略で出遅れが目立つ日本は、中台を含む多角的な取り組みで巻き返すときだ。
日本企業にとっては中国市場で台湾企業との競合が、台湾市場で中国製品との競合が激しくなる可能性がある。同時に、台湾の人材を生かした中国市場の開拓や中国の生産拠点を生かした台湾市場の開拓などが、これまで以上に進めやすくなる。奥行きのある戦略が求められよう。
中国に対する警戒感が強い台湾の最大野党、民主進歩党は中国経済との過度の一体化は危険だとみており、交渉の進め方が不透明だと馬政権を批判している。中国製品との競争の激化、さらには産業の空洞化を懸念する声も強い。
台中では陳会長の訪問に合わせて大規模なデモが起きた。今月上旬に行われた地方選挙で馬政権の与党・国民党が敗北した一因ともみられている。馬政権は昨年5月の発足以来、中国との関係緊密化を急ピッチで進めてきたが、今後はペースを多少ゆるめてでも丁寧に説明し透明性を高める必要があろう。
中国の共産党政権は台湾との枠組み協定を統一戦略の一環に位置づけている。中台関係の進展が日本の安全保障に与える影響も注視していかなくてはならない。