京都・東山の永観堂(禅林寺)の本尊は「みかえり阿弥陀」の名で有名だ。高さ77センチの小ぶりな立像が、後ろを振り返るように顔を左横に向けている。正面だけを見ていても見えないものがある。仏さまを拝むたびそんな自省を促される。
▼ことし、耳にして同じ思いにとらわれた言葉があった。天皇陛下即位20年に際した記者会見の、皇后陛下の発言である。「高齢化が常に『問題』としてのみ取り扱われることは少し残念に思います」。そして、「90歳、100歳と生きていらした方々を皆して寿(ことほ)ぐ気持ちも失いたくないと思います」と続けられた。
▼高齢者が社会にかける負担ばかりが話題になるけれど、振り返ってみれば還暦や古希を祝う伝統があったではないか。日本は長寿社会の実現を目指していたはずではないか。一面しか見ない風潮に対する痛切なお気持ちの表現だったと受け止めて、間違いあるまい。伝わってくる思いには、自省を促す力があった。
▼日経歌壇のことしの秀作に「車椅子(いす)押す青年の問ひかけに老人見上げて『もくれん』と言ふ」(小田茂)を見つけた。年末年始は世代を超えて人が集う。「寿ぎ」の気持ちを新たにするきっかけにもなろう。いま、モクレンは柔らかな産毛にくるまれたつぼみをつけている。もう春のきざしを感じながら、そう思う。