二〇一〇年度政府予算案が決まった。人への温かさは感じられるが、成長を目指す気概は乏しい。財政規律を含めて中期的な経済の姿を示すべきだ。
鳩山由紀夫政権になって初めての政府予算案は総額で過去最大の九十二兆円台に膨れ上がった。
自民党時代の福田康夫政権がつくった二年前の当初予算が八十三兆円台、麻生太郎政権でも八十八兆円台であったことを思い起こせば、今回の鳩山予算案がいかに大盤振る舞いであるか分かるだろう。わずか二年間で歳出総額は九兆円以上も増加した。
◆予算組み替えは未達成
昨年秋のリーマン・ショックを引き金に金融危機が世界に広がり、日本も荒波にのまれた。景気は二番底に陥る懸念が残る中、赤字を積み上げても財政が下支えに出動するのはやむをえないともいえる。だが残念ながら、肝心な部分で首をかしげざるをえない。
民主党は総選挙の政権公約(マニフェスト)で、子ども手当など一連の新政策の財源を一般会計と特別会計の予算組み替えで捻出(ねんしゅつ)すると約束していた。
子ども手当と公立高校の無償化、農家の戸別所得補償、高速道路の一部無料化、自動車重量税暫定税率の廃止というマニフェスト政策の予算額は計二・七兆円に上る。今回の歳出規模は昨年の当初予算額に社会保障の自然増一兆円とマニフェスト政策分をまるごと上乗せした金額にほぼ等しい。組み替えは果たせなかった。厳しく言えば、これもガソリン税暫定税率の廃止見送りと同様「公約違反」である。
たしかにダム建設など公共事業は一兆円以上も削減され、行政刷新会議の事業仕分けでも七千億円近くがカットされた。だが一方、地方交付税交付金は〇九年度に比べ一兆円近く増えた。これは結局、地方の公共事業に化ける。
◆福祉の充実は進んだが
事業仕分けによる予算編成の透明化など高く評価できる部分もあるが、新政策の財源論は総選挙当時から重要な論点だった。政権発足から実質三カ月しかなかった点を割り引いても、組み替えができないなら「赤字国債発行による将来へのつけ回し」と同じになる。鳩山政権は無駄カットにどんな手法が有効なのか、今回の経験を批判的に総括せねばならない。
政権交代で政策目標も変わった。それは「コンクリートから人へ」というスローガンに示されている。子ども手当や公立高校の無償化はその象徴である。診療報酬の引き上げや生活保護の母子加算復活も盛り込まれた。
藤井裕久財務相はこれを「福祉経済」と名付けている。自民党政権下では企業サイドが重視され、消費者や家計の視点がなおざりにされてきた経緯を踏まえれば、生活者の目線を重視するのはそれなりに評価できる。
だが、福祉の充実だけで将来の経済成長を展望できるだろうか。民主党は「子ども手当などの充実で将来の所得が安定すれば、消費が拡大する」と主張している。雇用を含めて生活の不安を取り除くのはもちろん重要である。
半面、そうした政策が赤字国債の増発で賄われた場合、家計は将来の増税を予想して財布のひもを締めるかもしれない。今回の予算では税収が三十七兆円と激減した一方、国債発行は四十四兆円を上回った。当初予算で借金が税収を上回るのは戦後の混乱期以来だ。
家計や消費者が将来に希望をもって消費を拡大するには、政権が財政規律と成長も重視している姿勢を示すことが不可欠だ。鳩山政権は来年五月以降に中期的な財政見通しを立てる方針だが、前倒しすべきである。
中長期の経済成長を目指す予算や税制がどうなったかといえば、新技術開発や環境関連予算で増額された部分もあるが、全体に精彩を欠いている。当初、公約にあった中小企業向けの法人税減税は早々と先送りされた。本格的な法人税減税も先送りである。
経済成長を促す観点から法人税の扱いをどうするか、さらに所得税や消費税も含めた税制全体をどう考えるのか。これらは新年から政権の重要課題になる。
予算支出方法の見直しも欠かせない。国民の税金が天下り役人の受け皿になっている独立行政法人や公益法人に流れ、結果的に無駄に使われている実態が事業仕分けを通じてあきらかになった。天下り根絶と一体で考えるべきだ。
◆政府全体の作り直しを
経済産業省一つとっても独法向け予算はなお四千四百億円規模に上っている。成長を目指すための予算であっても、天下り法人に支出して「中抜き」されてしまうのでは効果は上がらない。政府系金融機関を含めて公共部門全体をゼロから見直し、作り直す作業は緒に就いたばかりである。
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