鳩山首相の元公設秘書が偽装献金事件で在宅起訴された。背後には母親からの十二億円を超す資金提供がある。首相は「知らなかった」と釈明したが、納税問題は残り、疑惑の払拭(ふっしょく)にはまだ遠い。
政治資金収支報告書は、鳩山首相の事務所では、つじつま合わせの所産にすぎなかったのだろう。
支出の金額に合わせて、収入欄に「故人」らから献金があったと見せかける。小口献金は総額だけを記せばよく、その匿名性が悪用されていた。パーティー券の偽装も含め、虚偽記載の総額は約四億円にものぼった。
偽装を封じる手だてが、早急に必要だ。例えば、二〇〇九年分から国会議員の政治団体には監査が義務付けられた。公認会計士らが監査人となり、会計帳簿と収支報告書を点検するが、監査対象が「支出」に限られている。「収入」の実態にも監査の目を光らせる法改正を望みたい。
元秘書のみが罪に問われ、首相は不起訴だった。だが、現職首相が嫌疑を持たれたこと自体が、憲政史上でも異例だ。その重大さを自覚してもらいたい。
しかも、原資が母親からの資金だったことは看過できない。何しろ、十二億六千万円にのぼるというから驚く。カネの性質が当然、問題として残る。それほど巨額な資金が渡っているのに、長年、納税していなかったのはなぜか。「脱税ではないか」という声がわき出ても当然だろう。元秘書は「貸付金」と説明していた。
だが、記者会見で首相は「贈与」と認め、六億円超にもなる贈与税などを「速やかに納税したい」と述べた。しかも、「何も知らなかった。私を心配させまいとする親心だろう」と、あくまで首相は関与を否定した。本当なのか。国税当局には、厳正な税務調査を尽くすことを求めたい。
そもそも、母親からの資金提供は、〇二年に民主党の代表選で三選された当時から始まっていた。それゆえ、実際には政治資金だった疑いもくすぶる。
仮にそうなら、法の上限額を超す違法献金となる。母親からは上申書の提出で済まし、目をつぶったのか。捜査不十分の印象がぬぐえない。
小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の土地購入をめぐる新たな疑惑で、東京地検の捜査が始まっている。民主党のトップ二人が「政治とカネ」で泥にまみれていては、民心が政権交代の期待からますます離れる。
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