沖縄への核持ち込みに関する密約文書が見つかった。外務省が存在を否定してきたものだ。密約は引き継がれたのか、有効性はあるのか。外務省の有識者委員会で真相を徹底的に解明すべきだ。
見つかったのは、一九六九年十一月、佐藤栄作首相とニクソン米大統領が交わした合意議事録。
米国は沖縄から核兵器を撤去するが、有事の核再持ち込みを、日本政府は認めるという内容だ。
国内では日米安全保障条約の自動延長を翌年に控えて反安保闘争が激化し、核再持ち込みを表立って容認できる状況ではなかった。
核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」という非核三原則を提唱した佐藤首相が、三原則よりも沖縄返還を優先する決断をした、ともいえる。
密約を結んだことの是非は議論があるだろうが、沖縄返還という大義があるにせよ非核三原則を信じる国民を欺いたことは残念だ。
問題は、この密約が次の田中角栄首相をはじめ歴代政権に引き継がれたのか、現在でも法的な有効性を持つのか、という点だ。
議事録は「一通ずつを大統領府と首相官邸にのみ保管」と記しているが、佐藤氏が首相公邸で使った後、私邸に持ち帰った机の中から見つかり、次男の佐藤信二元運輸相が保管していた。
文書の実物は後任に引き継がれていないことになるが、密約が存在することすら歴代政権や外務省は全く知らなかったのだろうか。
外務省はこれまで密約は存在しないという立場だったが、米側は歴代政権が密約を有効だとして引き継いでいる可能性はある。
核戦略の機微に触れる話だが、米側に見解を確認し、現在の日本政府の立場を伝える必要がある。それが有事の際の混乱を避ける。
岡田克也外相は、この密約を含む日米間の四密約について有識者委員会に検証作業を委ねた。
委員会は、関係者に事実関係をただすなど、密約をめぐる疑問を徹底的に解き明かしてほしい。
その際、留意すべきことは、一連の検証作業が、非核三原則の変更に利用されないことだ。
三原則は国是であり、鳩山由紀夫首相が国連で表明した国際公約だ。放棄すれば、国際社会における日本の立場を著しく棄損する。
米国は九〇年代初めに艦船・原潜から戦術核を撤去するなど、核兵器の運用は密約を結んだ当時とは異なる。三原則を維持しても米核戦略と齟齬(そご)は来さないだろう。
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