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幕末から明治の初め、欧米から「お雇い外国人」がやってきて先進技術を伝えた。彼らを悩ませたのは、時間にかまわぬ日本の習慣だったという。「日本人の悠長さといったら呆(あき)れるぐらいだ」とあるオランダ人は書き残している▼ゆるい時間意識はしかし、すぐに厳格になる。眼鏡、ランプとともにまず普及した洋品は時計だった。そして鉄道の発達が時間管理の徹底に一役も二役も買ったと、『遅刻の誕生』(三元社)という本に教えられた▼鉄路の八達(はったつ)につれて明治から続くスピード化も、そろそろここが終着駅だろうか。やや旧聞に属するが、JR東海が、計画中のリニア新幹線は東京と大阪を最短1時間7分で結ぶと試算した。弾丸列車ぶりに「時は金なり」の格言も脱帽だろう▼乗り継ぎを入れても東京から広島まで3時間かからない。とはいえ、かつて新幹線を「夢の超特急」と呼んだ高揚感はいま一つだ。追われるように先を急ぐ人生に、さらにムチが入るだけではないか――。重ねた齢(よわい)のせいか、技術への期待は昔ほど素朴ではない▼その昔、「急行」が初めて走ったときに怒った人がいたそうだ。「乗る時間を短くして運賃が高いとはけしからん」という理屈だったらしい。苦笑しつつも、忘れていた牧歌を聞くような懐かしみがわく▼時計にせよ暦にせよ、見えないはずの「時間」を見えるようにしたのも科学であり技術だった。そして年の瀬、時の流れはいっそう忙(せわ)しない。外国人を呆れさせたご先祖の悠長に思いをはせて、新しいカレンダーを壁に掛ける。